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第八話 「大精霊の予感」

「それでは~お兄ぃと私の合格を祝して~!」


「かんぱーい!」


試験後の夜、俺とリア、そして大精霊イムは、合格の祝いに市場で大量の食材を買い込み、俺が腕を振るって豪勢な夕食を用意した。

少しばかり財布は痛んだが、今後は安定した給料が入るだろうし、たまには贅沢してもバチは当たらない。


俺とリアのグラスにはジュースが注がれ、イムのグラスにはワイン。リアの音頭で、俺たちは勢いよくグラスを掲げた。


イムは大精霊でありながら、外見はどう見ても十代の少女にしか見えない。

正直、酒を飲ませていいのかは微妙なところだが……まぁ、大精霊だから常識が違うのだろう。


「うーん! 美味し~い!」


リアは本日のメインディッシュ――ミノタウロスのステーキを豪快に頬張り、満面の笑みを浮かべた。


「リア、試験どうだった?」


俺はフォークを持ちながら、ふとリアに尋ねた。


「うーん、まぁ普通だったかな~。魔術師同士の戦闘は、私慣れてるし」


そりゃそうだろう。

リアは都市最強の魔術師団に所属し、その中でも五本の指に入る実力者だ。

並みの受験者では太刀打ちできないだろうし、むしろ手を抜く方が大変だったに違いない。


しかし、ここでふと疑問が浮かぶ。


……そもそも、なんでリアは突然魔術学院に入りたいなんて言い出したんだ?


リアの所属する魔術師団は常に忙しく、人手が足りない状態だ。

その中でもトップレベルのリアが抜けるとなれば、大きな痛手になるはず。

そんな状況で、よく許可が下りたものだ。


「なぁ、リア。お前が魔術学院に入るのって、職場は許可してるのか?」


俺はふと気になって問いかけた。


「あー……うん。普通に許可してくれたよ! オッケーって!」


リアは笑顔で答えたが、どこか曖昧な口調だった。

さらに、こっそりと俺の皿の上に手を伸ばしてきた。


「させるかっ」


俺はリアの手を素早く察知し、皿の料理を一気に口に放り込む。

久々の豪華な食事だ。今日ばかりはリアに譲る気はない。


「そういうお兄ぃはどうだったの?」


「俺か? まぁ普通だったぞ。挑んできた奴全員ギブアップさせたからな」


「ど、どんな戦い方だったの?」


その後、俺の試験の話で盛り上がった。

元の職場の連中は、俺の極魔術や失われたとされている魔術の話を頑なに信じなかったが、リアは興味津々に耳を傾けてくれた。


「へぇ……そんな魔術、実際に見てみたいなぁ!」


リアの目はキラキラと輝いていた。

こんなふうに素直に話を聞いてくれる妹がいるのは、やっぱり嬉しい。


「……あー、美味しかった~!」


「そうだな」


山のようにあった料理もすっかり空になり、俺たちは食後の紅茶を啜っていた。

すると、リアが席を立ち、食器を片付けながら言った。


「私、ちょっと電話してくるね! おやすみ~!」


リアは明るく手を振り、部屋へと消えていった。


「いやー、それにしてもフェイ君、凄かったねー」


イムがワインを飲み干しながら話しかけてきた。

あれだけ飲んだのに全く酔っていない様子だ。見た目は子供でも、さすが大精霊というべきか。


「ちゃんとお前に言われた通り、やり過ぎないようにしたぞ」


「うんうん、凄かったよ! さすがクレアの息子だけあるね。」


イムは無邪気に笑っているが、その目はどこか鋭さを帯びていた。

次の瞬間、彼女の表情がふと真剣なものに変わる。


「それより、フェイ君……私、気づいたことがあるんだ」


「なんだ?」


イムは改まった口調で続けた。


「リアちゃんの試験、魔術でちょっと覗いてたんだけど……その時、妙な反応があったんだよね」


「妙な反応?」


俺は眉をひそめた。


「うん。外部から誰かが、リアちゃんたちの試験を魔術で覗いてたの」


その言葉に、俺の中に冷たいものが流れる。


「誰かの親が子供の様子を見てただけってことは?」


「うーん……そうだといいんだけど。でも、何か嫌な予感がするんだよね」


大精霊の“予感”。それは軽く流せるものじゃない。

イムの直感は、これまで外れたことがないそうだ。覗いていた奴が誰なのか、何の目的があるのか――それは確かに気になるところだ。


……まぁ、1ヶ月後に始まる学院生活で何かわかるだろう。


そう思いながら片付けを終えると、イムはまだ険しい表情を崩さなかった。


――その頃。


夜も更け、街はすっかり静まり返っていた。

とある路地裏。薄暗い月明かりの下、黒いローブを羽織った男が誰かと話していた。


「……例の奴、無事試験に受かりましたぜ」


その声は低く、不気味な響きを持っていた。


「そうか。ご苦労であった。引き続き監視を頼むぞ」


同じく黒いローブを深く被った男が短く答える。

その声には冷酷な響きが含まれていた。


「ただ、気になることが一つ。あの魔術師団の奴が一人紛れてたんですよ。例の……紫色の目の女」


「なるほど。奴らも気づき始めているか。コードネーム『零』、リア・アースライズ……あれがターゲットの近くにいられると厄介だな。」


男の声は低く、しかし確実に不穏な気配を孕んでいた。


「任せてくださいよ。いずれ排除しますぜ」


「……頼むぞ」


男たちは互いに頷き合うと、最後に一言を交わした。


「我らが魔王の復活を夢見て――」


月明かりの下、男たちのローブに縫い付けられた悪魔の紋章が、不気味な光を放っていた。

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