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第5話 「戦闘訓練 with sister」

「じゃあ、遠慮なくいくぞ。」


「いいよー!」


現在地、ダンジョン13階層。

ここは迷宮都市シャーロットでも珍しい、“魔獣が一切生息しない安全地帯”として知られている。魔術師たちの戦闘訓練にうってつけの場所であり、実力を磨きたい者たちに人気の高いエリアだ。


運良く先客はなく、しかも朝も早いため、この広大な空間はほぼ貸し切り状態。俺とリア、そして岩の上から見物する大精霊イムだけの静寂な空間に、これから繰り広げられる戦いの緊張感が漂っていた。


そもそも、なぜ俺がリアと戦闘訓練をすることになったのか。その理由は、昨夜の出来事にさかのぼる――。


『戦闘訓練?』


『うん! シャーロット魔術学院の入学試験は受験者同士の戦闘で決まるんだって! だからお兄ぃ、私の戦闘訓練手伝って!』


『いや、ちょっと待て。なんで俺が? 今日初めて魔術を使ったばかりだぞ?』


リアはケロッとした顔でサラッと信じられないことを言い放った。


『何言ってんの? お兄ぃも受けるんだよ?』


『……は?』


あまりのことに間抜けな声が漏れた。


『リア? それ、どういう意味だ?』


『そのまんまだよ。私が受験する日にお兄ぃは講師の部門を受験するんだよ! 試験内容は同じらしいし、一緒に特訓しよ♡』


『いやいや、俺、人に教えられるような知識ないし……』


『じゃあさ、かつてお母さんが使ってた魔術を教えればいいじゃん!』


『……それなら、まぁ、考えなくもないけど……』


リアはニヤリと悪戯っぽく笑うと、耳元に顔を近づけて囁いた。


『それにね、お兄ぃ。シャーロット魔術学院の講師って、お給金かなり高いらしいよ』


『よし、やろう』


そして現在。


「にしても、なんで講師まで実技試験で採用決めるんだろうな?」


「シャーロット魔術学院は実力主義だからね。講師も強い魔術師じゃないと務まらないらしいよ」


「……なるほどなぁ」


リアの説明に納得しつつも、気が重くなる。とはいえ、給金が高いという情報には抗えなかった。妹の食費、イムの食費、そして生活費――全部を賄うには、安定した収入が必要だ。


「じゃ、お兄ぃ。早速いくよ」


リアは先ほどまでの無邪気な笑顔を引っ込め、鋭い視線を向けてきた。その瞳の奥に宿る真剣さに、俺も自然と気が引き締まる。


「二人とも~、あまり派手にやり過ぎないようにねー」


岩の上でお菓子を食べながら見物している大精霊様は、今日もマイペースだ。


「はいはい……。じゃあ、まずは手始めに――」


俺は深く息を吸い、手を前に突き出す。


「《鋭利なる氷柱よ》ッ!」


氷魔術・中級【アイス・スピア】を詠唱。空気が一瞬で冷え込み、頭上に鋭く尖った氷の槍が形成される。

リアの動きを確認しつつ、数本の氷の槍を一斉に発射――!


「《炎の壁よ(フレイム・ウォール)》ッ!」


リアは瞬時に防御魔術・初級【フレイム・ウォール】を展開。彼女の周囲を炎の壁が取り囲み、飛んできた氷の槍は次々と溶かされていく。


――だが、それも想定内だ。


【フレイム・ウォール】は全方位を覆うわけじゃない。特に上部の防御は甘い。


俺は無詠唱で風魔術・初級【ウィンド】を地面に向けて放つ。突風の反動で身体が宙に舞い上がり、炎の壁の上空へと飛び越える。


「これで――決める!」


再び氷魔術・中級【アイス・スピア】を詠唱し、リア目掛けて槍を放とうとした――が、その瞬間、背後に強烈な魔力の気配を感じた。


「甘いよ、お兄ぃッ!」


リアの声と同時に、俺の背後から巨大な水の渦が襲いかかる。


「《大水流よ、全てを呑み込め》!」


水魔術・上級【ウォーター・ウェーブ】――!

特大の水の渦が俺の体を包み込み、強烈な水圧で動きを封じ込めようとする。


「くそっ……!」


並大抵の魔術ではこの水の渦を突破することは不可能。普通ならここでギブアップだろう。だが――


「……甘いのはそっちだ、リア。」


俺は魔力を練り直し、全身に力を込めた。


「《極炎よ、全てを灰燼に帰せ》!」


炎魔術・上級改【極炎の渦】を展開。

俺の体を包んでいた巨大な水の渦は、灼熱の炎によって一瞬で蒸発し、激しい蒸気と共に跡形もなく消え去った。


「う、うっそぉ……!」


リアは驚愕の表情を浮かべたが、すぐにそれを押し殺し、再び戦闘態勢を整える。


「……なかなかの魔術だな。さすがリア。」


「お兄ぃこそ、すごいね! こんな短期間でここまで魔術を使いこなせるなんて!」


二人の呼吸が乱れ、互いの実力を認め合う視線が交差する。


「どうする? まだ続けるか?」


「ううん、もういいかな。【ウォーター・ウェーブ】の威力を試したかっただけだから。……試験でやりすぎないようにねっ」


リアの含みのある言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。

確かに、リアの本気はまだ見たことがない。だが、それでも彼女の実力は“レベル5”の魔術師を軽く捻じ伏せられるほどのものだと確信している。


今の魔術師たちは、正直言って温すぎる。これじゃ、リアに敵う相手はいないだろう。


「お兄ぃ、今日はありがとね! お礼に……キスしてあげよっか?」


「ははは、ありがとう。でもなリア? そのワンパターンなからかい方はもう通じないぞ」


俺はそう言いながらリアの頭をクシャクシャと撫でた。リアは頬を膨らませてプクーッと拗ねるが、その顔はどこか嬉しそうだった。


「さて、帰るか。……ところでリア、その採用試験っていつなんだ?」


「明日♪」


「あー、明日ね……明日ぁ!?!?!?」


俺の叫び声が、静かなダンジョンに響き渡った。

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