第四話 「"レベル4"の義妹」
「ただいまー」
玄関の扉を開けながら、思わずため息が漏れた。
パーティーで雑用をしていた頃よりは早く帰宅できたはずなのに、今日は妙に長い一日だった気がする。
――魔術が使えるようになり、大精霊イムと契約し、ランクAの【シャドウ・ウルフ】を倒す。
まさかこんな大冒険みたいな日になるなんて、朝の俺は想像もしてなかっただろう。
普段ならこの後、食べ盛りの妹のためにたくさん料理を作るのが日課だが――今日は違う。
玄関先には、すでに下処理を終えた巨大な【シャドウ・ウルフ】がドンと鎮座している。これだけあれば、さすがのリアも満腹になるだろう……多分。
「お兄ぃ、おかえりー!」
玄関を開けた途端、妹のリアが元気よく飛び出してきた。黒髪がふわりと揺れ、珍しい紫色の瞳がキラキラと輝いている。
だが、俺の背後にある巨大な獣の死骸を見た瞬間、リアの表情は一変した。
「……うわ、どしたのその【シャドウ・ウルフ】?」
「ダンジョンの十階層で倒した。今日の晩御飯だぞ。」
「あの十階層で!? って、倒したって……お兄ぃ一人で?」
「あぁ。聞いて驚け? 俺、魔術を使えるようになったんだ。」
一拍の沈黙の後――
「……え……えええ……ええええええええっ!? お兄ぃが魔術ををををっ!?」
リアは紫色の瞳を見開き、顔を真っ赤にして叫び声を上げた。その反応に、思わず苦笑いが漏れる。
「そ、そんなに驚くことか?」
「そりゃ驚くよ! お兄ぃ、今の今まで原因不明で魔術使えなかったじゃん!」
「まぁ、そうだけどさ……」
と、その時、リアの視線が俺の後ろに向けられた。
「ところでお兄ぃ、その後ろの人は……?」
リアの視線の先には、俺の後ろに立つ赤髪の少女――いや、大精霊イムの姿があった。
「あぁ、こいつはイム。昔、母さんと契約してた大精霊で、今は俺の契約者だ」
「へぇ……大精霊……って、え!? 大精霊!?」
リアは再び目を見開き、驚きの声を上げた。
「な……なんで君たち兄妹は、血が繋がってないのに反応までそっくりなのかなぁ……?」
イムは呆れたように言いながらも、どこか楽しげな表情を浮かべていた。
確かに俺も、リアが本当の妹じゃないと聞いたときは驚いた。
でも、それでも俺は今でもリアを妹だと思っている。髪の色も同じ黒、性格も似ているとよく言われるし、何よりも一緒に過ごした時間が俺たちを家族にしたんだから。
――だが、リアはどう思っているのだろうか。
「……お兄ぃ、知ってた? 私とお兄ぃが本当の兄妹じゃないって……」
リアの声が少しだけ低くなり、その紫色の瞳が陰りを帯びた気がした。
「あ、あぁ……と言ってもさっきイムから聞いたばかりだけど
「……そっか…」
その瞬間、リアの顔から笑顔が消え、静かな沈黙が流れる。
このままじゃダメだ――俺はそう思い、リアに向かって真剣に言葉を紡いだ。
「リア。血が繋がってなくても、俺とお前は家族だぞ」
俺の言葉にリアは一瞬きょとんとした顔をしたが、次の瞬間――
「 私お兄ぃと結婚できるじゃん!」
満面の笑みでそう言い放った。
「わぉ、そうきたかぁ」
イムが驚きの声を上げる横で、俺は頭を抱えた。
何を言ってるんだ、この妹は……!?
てっきり落ち込んでいると思っていたのに、この予想外すぎる展開に俺は完全に混乱した。
15歳にして魔術師階級”レベル4”に到達し、王族直属の魔術師団に所属するリア。さらにその中でも五本の指に入る実力者である彼女の唯一の欠点――それは、
重度のブラコンである。
イムによると、十三年前、母クレアがとある事件を解決した際に、巻き込まれていた孤児院から引き取られた少女。それがリアだそうだ。
彼女には未だに解明されていない、魔術とは異なる特殊な力を持っているらしい。また本人もその能力の全貌を理解していないが、母クレアは「十三年前の事件と関係している」と言っていた。
今のところ害はないようだが……俺としては、リアのブラコンの方がよっぽど深刻な問題だと思う。
「うわぁ、美味しそう~!」
気が付けばリアは【シャドウ・ウルフ】を手際よく捌き、あっという間に調理を終えていた。
「俺の分はいいから、イム。お前も食べるといい。」
「え! やったー!」
イムは子供のように無邪気に喜び、リアと一緒に食卓へ向かう。
その様子はとても大精霊には見えず、ただの食いしん坊な少女にしか見えなかった。
二人は大量の【シャドウ・ウルフ】をものの五分で平らげた。
は、早すぎる……。
リアの食欲は知っていたが、イムも大食いとは。
これからはリアだけでなくイムの食費も稼がないといけない。そう考えると、給料の良い仕事を探す必要があるな。
だが――もうパーティーでの雑用生活はごめんだ。
そんなことを考えていると、食後のお茶をすするリアが唐突に口を開いた。
「あ、そういえばお兄ぃ。私、シャーロット魔術学院を受験することになったから、受かったら入学金その他もろもろよろしくね♡」
「……」
明日から、真面目に新しい仕事を探そう――。
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