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第二話 「大精霊イム」

あれから一時間が経過した。


現在、俺の目の前には――空になった皿が十枚ほど、まるで塔のように積み上げられている。


「……一つ、聞いてもいいか?」


「はい、なんでしょう?」


赤髪の少女は、天使のような無邪気な笑顔で答える。その無邪気さが逆に腹立たしい。

俺は思わず額に手を当て、深いため息をついた。


「どれだけ食えば気が済むんだ!俺は金がないんだぞ!」


「うーん……あと五品くらいですかね?」


「……俺の話、聞いてたか?」


この少女――イムと名乗る赤髪の謎の少女が腹が減って死にそうだと言うから近くの食堂に連れてきたのだが……

妹のリア顔負けの食欲で、十品もの料理を一瞬で平らげてしまった。妹のリアも相当な大食いだが、この少女の胃袋は異次元だ。


「おい……これ、誰が払うと思ってるんだ?」


「お兄さんです!」


「だよな!?」


……俺の財布は、もはや風前の灯火。もしかすると、次の食事は数日後になるかもしれない。


「で?お前は一体何者なんだ?」


俺はもう諦め半分で問いかけた。食欲が少し落ち着いたのか、イムは口元を拭いながらニコリと微笑む。


「私ですか?大精霊イムですよ?」


「へぇ、大精霊……って、はぁあああ!?」


思わず椅子から転げ落ちそうになった。

今、この子……大精霊って言ったか?気のせいじゃないよな?

大精霊と言えば、自然界の根源たる存在。人々が信仰の対象にするような、超常的な力を持つ存在だ。それが……この目の前の、食いしん坊な少女?


「えぇ、正真正銘、本物の大精霊です。こんなところで話すのもなんなので、場所を変えましょう!」


「いや、ちょっと待て……!?」


俺が制止する間もなく、イムは俺の手をガシッと握りしめた。


「《転移テレポート》!」


「うおおおおっ!?」


視界が一瞬で真っ白になり、重力の感覚すら消え去った。全身を包み込む光が収まると、気づけば俺たちは冷たい空気が漂う薄暗い洞窟の中に立っていた。


「ここは……ダンジョンか?」


「そうだよ。正確には、十階層だけどね」


「十階層……」


迷宮都市シャーロットの地下に広がる巨大なダンジョン。その十階層と言えば、ランクA指定の魔獣が多数生息する危険地帯だ。通常、魔術師階級”レベル3”以上でなければ足を踏み入れることすら許されない。

……まぁ、俺はバンの雑用係として無理矢理連れてこられたことがあるが。


「さて、改めまして……フェイ・アースライズ君」


イムは俺の名前を呼び、まるで空気が変わったかのように真剣な眼差しを向けてきた。さっきまでの無邪気な少女とは打って変わった表情だ。


「私の名前はイム。かつて君の母親、クレアと契約していた大精霊だよ」


「……母さんと?」


その言葉を聞いた瞬間、俺の脳内で何かが弾けた。


クレア・アースライズ――“炎姫の魔女”と呼ばれた、かつての最強魔術師。俺とリアの母親だ。

だが、母さんは六年前に突然姿を消した。俺とリアを置いて。


「さっきの話の続きだけど、フェイ君。君、魔術を使えるようになりたい?」


イムは再び問いかけてきた。その目は真剣で、冗談を言っている様子はない。

俺は一度深呼吸をしてから答えた。


「……まぁ、使えるようになるなら、なりたいさ。でも……その前に一つだけ聞かせろ」


「いいよ?なんでも聞いて」


「なぜお前は俺の前に現れた?」


イムは少しだけ口元を緩めたが、その目の奥に隠された意図は読み取れない。


「なぜか……ね。まぁ、契約だからね」


「契約?」


「そ。君の母さんと交わした契約に従って、君の前に現れたんだよ」


「母さんとの契約か?」


「それは秘密。女の子には言えない秘密があるんだよ?」


……はぐらかすなよ、コイツ。

だが、母さんが関わっていることは間違いなさそうだ。


「まぁ、魔術が使えなくても君にはクレアの血が流れてる。つまり、君は魔女の血を引く()()()1()()


「……は?最後の一人?」


嘘だろ?じゃあリアはどうなる?


「俺には妹がいる。リアも優秀な魔術師だ。妹にも魔女の血が流れてるはずだろ?」


イムは首を横に振った。


「残念だけど、リアちゃんはクレアがとある事件の時に引き取った子。血の繋がりはないよ」


「……マジかよ」


リアは義妹……?


まさかのカミングアウトにフェイは落ち込むと思いきやーー


……うぉぉぉ!なんかテンション上がってきた!


生憎、フェイ・アースライズはバカであった。

昔読んだ伝説の魔術師の物語を思い出し、義妹との微妙な関係を妄想し始めていた。


そんな俺の妄想を吹き飛ばすように、イムは真剣な表情で手を差し伸べてきた。


「フェイ・アースライズ君。どうか、私と契約してくれませんか?」


「もう一つ聞かせろ……なぜお前はこの無能な俺にこだわる?俺が『炎姫の魔女』クレアの息子だからか?」


イムは静かに首を振り、真っ直ぐ俺の目を見据えた。


「君だからだよ」


答えにはなってないが、その言葉には、確かな重みがあった。


「……じゃあ、包み隠さず話してもらおうか」


イムは一呼吸置いてから、静かに口を開いた。


「クレアと私が契約して倒したはずの邪神と魔王は……まだ死んでない」


「……は?」


「私たちは邪神と魔王を一時的に無力化しただけに過ぎなかった。その証拠に、最近ダンジョンで不可解な現象が多発している。魔獣も凶暴化しているし、魔王教という集団が裏で動き始めている」


「……魔王教?」


「彼らの目的は魔王、そして魔族の完全復活」


俺は完全に言葉を失った。

あの最強と謳われたクレアと大精霊イムの二人がかりでも倒しきれなかった存在が、この世界に再び蘇ろうとしている――?


俺はふと、ずっと気になっていたことを思い出した。


「なぁ、大精霊」


「なぁに?」


「なぜ母さんが使っていた極レベルの魔術を、誰も知らないんだ?」


イムはしばらく考え込んだ後、静かに答えた。


「分からない。それどころか、魔王教の人間以外は魔王の存在すらも忘れている」


「……じゃあ、なぜ俺だけ?」


イムは腕を組み、しばらく沈黙した後にポツリと呟いた。


「君の中に流れる魔女の血が関係しているんだと思う。でも、一つだけ言えることがある」


イムの表情からは、幼さが消え去り、威厳ある大精霊の姿が現れていた。


「言えることとは?」


「君が魔術を使えない原因と、この魔王の件――両方に関わっている“邪な存在”がいるってこと」


「な……ッ!」


イムは組んでいた腕をほどき、再び俺に手を差し伸べた。


「私と契約してくれませんか? 世界を救うには君の力が必要になる。この世界を守り、人々の笑顔を守り抜く。それがクレアの望みだから!」


俺はその言葉に胸を打たれ、静かに手を取った。


「……無能の烙印を押されたこの俺に、そんな大役が任される時が来るなんてな……」


そして、俺は静かに呟いた。


「その話、乗らせてもらうよ――大精霊様」


「ありがとう……ッ!」


イムは急に俺に抱きついてきた。その瞬間、俺の顔は真っ赤に染まった。


「じゃあ、契約の儀式を執り行うね」


「あぁ、よろしく頼む」


「じゃあ、服脱いで」


「……はぁああああ!?」


なんだと!?契約ってそういうことなのか!?


「あ、勘違いしないでね?私の魔力を君に流して繋ぐだけだよ?」


……ですよねー。


「じゃあ、始めるよ。《私と貴方、それは繋がれしものなり。我が御霊を貴方に捧げ、一つになれ。ここに契りを――我が大精霊イムの名の元に執り行う》」


イムが契約魔術【ホーリー・プレッジ】を唱えた。

刹那、眩い光が俺とイムを包み込み――契約は完了した。


「はい、終わったよ」


「なんか、一瞬だったな」


「これからよろしくね、お兄さん」


「あぁ、よろしく……」


世界は俺を必要としてくれたのか?

まだ答えはわからない。だが――俺の未来は、確かに動き出した。


……と、思ったその時。


「お兄さん……契約魔術を使ったときに流れた魔力が大きくて……その……魔獣に囲まれちゃった!テヘペロ!」


「はぁぁっ!?」


気がつけば、俺たちの周囲には数十体のランクA指定魔獣【シャドウ・ウルフ】が涎を垂らしながらこちらを睨んでいた。


「お兄さん!あとはよろしく!」


「おい、うっそぉ……!」


こうして、新米(?)魔術師フェイ・アースライズの初魔術は、想像以上に壮大なものとなりそうであった。

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