第12話 「学院最強の少女」
「面白い!」「続きが気になる!」と思った方は、
ブックマーク登録そして
広告下にある☆☆☆☆☆を★★★★★をつけて評価していただけたら嬉しいです!
ブクマ、評価は作者の励みになりますので是非お願いいたします!
迷宮の奥から響いた異様な魔力の波動に、生徒たちは一斉に足を止めた。冷たい空気が張り詰め、緊張感が広がる。
「せ、先生……今の、何ですか?」
一人の生徒が不安げに尋ねる。
フェイは眉をひそめ、迷宮の奥をじっと見つめた。
「……静かにしろ。何か来る」
ズシン……ズシン……
重い足音が迷宮の石畳を揺らし、淡い光が暗闇の中に浮かび上がる。
そしてーー
「……誰だ?」
金色の長髪が冷たい光を反射し、蒼い瞳が鋭くこちらを見据えている。その優雅な佇まいは、まるでこの場に似つかわしくないほど完璧だった。
少女は静かに歩を進めると、ふと足を止めてフェイに視線を向けた。
「あら? 私以外にも人がいたのね……」
その一言で、生徒たちはざわめき始める。
「エリザベート生徒会長……!?」
「あの、学院最強の……!」
金色の髪を優雅にかき上げながら、少女は冷たい笑みを浮かべる。
「そうよ。私の名はエリザベート・クロイツフェルト。この学院の生徒会長を務めていますわ。……あなたは、確か新任の……」
フェイは面倒くさそうに肩をすくめた。
「フェイ・アースライズ。一年B組の担任だ」
「あぁ、あなたがあの…"レベル0"」
エリザベートは少しだけ眉をひそめたが、すぐに余裕の笑みを浮かべた。
「まあ、教師にしては随分と……独特な雰囲気ですわね」
(なんだその微妙な言い方は……)
フェイは内心で突っ込みながらも、あえて気にしない素振りを見せた。
「お前こそ、こんなところで何してんだ?」
エリザベートは微笑を崩さず、涼しげに答えた。
「少しダンジョン探索をしていただけですわ。たまには腕を鈍らせないよう、自らの力を試すのも大切ですもの」
「……それはご立派で」
フェイは皮肉気味に答えたが、エリザベートは気にする様子もなく優雅に笑う。
「それにしても、1年生を連れてダンジョン探索とは……随分と大胆な授業ですこと」
「座学だけじゃ魔術は身につかねぇからな。実戦で叩き込んでるだけだ」
「ふふん……なら、その実戦力とやら、私が確かめて差し上げますわ」
エリザベートは冷静な表情のまま、一歩前に出た。その動作には一切の無駄がなく、完璧に洗練されている。
「あなたがどれほどの実力者なのか、興味がありますの」
彼女は氷の槍を瞬時に生成し、フェイに向けて放つ。その動きは流麗で、見る者全てを魅了する美しさがあった。
生徒たちはその圧倒的な技量に息を呑んだ。
エリザベートは氷の槍を放ちながら、微笑を浮かべる。
「一撃で終わりですわーー《氷の槍よ》ッ!」
エリザベートが放ったのは氷魔術・中【アイス・スピアー】。
だがフェイは微動だにせず、指を鳴らした。
「ーー《断魔》」
氷の槍は空中で粉々に砕け散る。その瞬間、エリザベートの瞳がわずかに揺れた。
「まあ……少しはやるようですわね」
エリザベートは軽く髪をかき上げ、さらに魔力を解放した。迷宮全体に冷気が満ち、その場にいる全員がその圧力に圧倒される。
「あなた……なかなか興味深いわ。なら、もう少し本気を出して差し上げます」
彼女は両手を広げ、巨大な氷の竜を生成した。
「ーー《氷の竜よ 顕現せよ》ッ!」
「ほう…見たことない魔術…なるほど、"専用魔術"か」
学院最強の称号とも言える生徒会長の座についているエリザベート。彼女はすでにレベルの高い魔術師でも作ることすら難しいと言われる"専用魔術"の作成に成功していた。
氷の竜は轟音とともにフェイに向かって突進する。その迫力と魔力の密度は、先ほどの比ではない。
「うわっ……!」
生徒たちはその威圧感に後ずさる。
しかし、フェイは一歩も引かず、手のひらを前に突き出した。
「なるほど、さすがは学院最強の生徒会長様だな。だがーー《魔力解放・零式》」
彼の周囲に漂う魔力が一気に爆発し、氷の竜はその衝撃波に飲み込まれて粉々に砕け散った。
氷の破片が消え去ると、エリザベートは驚愕の表情でフェイを見つめていた。
「そ、そんな……私の【ブリザード・ドラゴン】が……?」
だが、すぐに冷静さを取り戻し、髪を整えながら微笑む。
しかし、その瞳は今にも泣き出しそうなほどうるうるとしていた。
「ふ、ふん……なかなかやりますわね、フェイ・アースライズ。でも次は負けませんことよ」
フェイはその様子を見て、肩をすくめた。
「強いのは認めるけど……ちょっとムキになりすぎじゃねぇのか?」
「ムキになんてなってませんわ!」
エリザベートは顔を真っ赤にしながら反論したが、その声はどこか焦っていた。
そしてーー
「……あら?」
足元の氷に気づかず、エリザベートは滑って尻もちをついた。
「きゃっ……!」
生徒たちの間に笑いが広がる。
「せ、生徒会長……大丈夫ですか?」
「さ、さすがにかわいい……」
エリザベートは顔を真っ赤にしながら立ち上がると、プイッとそっぽを向いた。
「これは……その、計算ですわ! さ、さようなら!」
そう言い放つと、彼女は早足で迷宮の奥へと去っていった。だが、出口とは逆方向に向かっていることには気づいていない。
「おい、生徒会長、そっちは出口じゃねぇぞ」
「……わ、わかっていますわ! ただの……ええと、演出ですわ!」
(やっぱりこいつ…ポンコツか?)
フェイは苦笑しながら、生徒たちに向き直った。
「お前ら、今日の授業で分かっただろ? 魔術は“型”じゃねぇ。実戦でどう応用するかが全てだ」
生徒たちは真剣な顔で頷いた。その瞳には、新たな決意と少しの余裕が宿っていた。
「さて、帰るぞ。次はもっと面白い授業をしてやるよ」




