第一話 「追放、そして出会い」
20時ごろ更新予定
2024 2/1 追記
3年ぶりに更新するにあたって、クオリティアップのため1〜9話を再編集いたしました!
「フェイ、魔術が使えない無能がいると我がパーティーの格が下がる。今すぐ出て行ってもらおう」
「……は?」
唐突に告げられた言葉に、俺は思わず聞き返した。
目の前に座るパーティーリーダーは、冷淡な表情のまま俺を見下ろしている。冗談ではないらしい。
俺が所属していたのは、迷宮都市シャーロットでも名を馳せるトップパーティーだ。百万の魔術師がひしめくこの都市で、魔術師階級”レベル5”に到達した者が三人もいる精鋭集団。
その一員である俺のレベルは――0。
理由は単純明快。魔術が使えないからだ。
魔術とは、体内の魔力を特殊な言語で詠唱し、現実に実体化させる超自然現象のことだ。
俺は魔力そのものが無いわけじゃない。むしろ常人以上の魔力量を誇っているとすら言われている。それでも魔術は一向に発動しない。その原因は、専門家ですら解明できなかった。
だが、それでも俺はこのパーティーで何とかやってきた。直接魔術を扱えなくとも、戦術支援や戦闘指揮で貢献してきたつもりだったのだが――
「魔術が使えない無能は我がパーティーには不要だ。お前があの元最強魔術師、“レベル7”『炎姫の魔女』クレアの息子だとしてもな」
「そうだぜ、無能野郎!」
ガチャリ、と勢いよく扉が開く音が響く。入ってきたのは、“レベル5”の一人であるバン・サブリエラ
――通称『狼を狩るもの』だ。
プライドが高く、実力主義を掲げる彼にとって、魔術が使えない俺は目障りでしかなかったのだろう。
「母さんのことは関係ないだろ……」
「頭が高ぇ!」
俺が言い返しかけた瞬間、鋭い痛みが頬を走った。バンが魔力を解放し、空間ごと圧をかけたのだ。頬からじわりと血が滲むが、正直――痛くない。
「お前、マジで目障りなんだよ。毎回俺の魔術にいちゃもんつけやがって!魔術も使えないくせによぉ!」
「……」
俺が指摘してきたのは、彼の魔術構築の無駄な詠唱やエネルギーのロスについてだった。しかしそれも、彼にとっては『無能のくせに生意気だ』というだけの話だったのだろう。
「その辺にしておけ、バン。フェイ、お前に最後のチャンスをやろう」
「チャンス……ですか?」
思わぬ提案に、俺は眉をひそめた。こいつらは一刻も早く俺を追い出したいはずだ。それなのに、なぜ?
「ああ、簡単なことだ。今ここで魔術を使ってみせろ」
――そういうことか。
最後の最後まで笑い者にして追い出すつもりか。
「使えるもんならな、ハハハッ!」
「……」
仕方なく、俺は席を立ちバンに手を向ける。
「最初に言っておきますけど、撃てと言ったのはそちらですから。間違って死んでも責任は取りませんよ?」
「ハンッ! 口だけは達者だな」
俺は深く息を吸い、ありったけの魔力を込めて詠唱を開始する。
「《古の炎よ 焦がれ焦がれよ 焼き尽くせ》」
火魔術・極【フレイム・レクイエム】。
俺の左手に魔力が宿り、術式が形を成していく。だが――
あと少しというところで、いつものように術式は崩壊した。
沈黙の後、パーティーメンバーたちは一斉に爆笑し始めた。
「ハ……ハハハッ!なんだよ、脅かせんなよ!知らねぇ魔術を使おうとしてよォ!使えねぇくせによぉッ!」
――ん?
知らない魔術、だと?
嘘だろ……これはかつて『炎姫の魔女』クレア――俺の母が得意としていた魔術のはずだ。
……ああ、そうか。母さんの魔術は『失われた魔術』ってことになってるんだったな。
「これで分かっただろ?フェイ。さぁ、出て行け」
「……今までありがとうございました」
静かに一礼し、俺はパーティールームの扉を開いて出て行った。背後からは、まだ俺を嘲る笑い声が聞こえてくる。
「さて、と……仕事、探さなきゃなぁ」
追放された俺は、次なる仕事を探し始めた。
だが、どのパーティーも求めているのは強い魔術師ばかり。魔術が使えない俺の需要は皆無だった。人生で初めて、自分が魔術を使えないことを悔やんだ瞬間だった。
俺には妹が一人いる。俺とは違い、15歳にしてすでに”レベル4”に到達している天才だ。元最強魔術師の娘としては当然かもしれない。
広場の噴水の近くで、俺は深いため息をついた。
ため息の理由は魔術が使えないことではなく、単に仕事が見つからない不安からだ。一刻も早く仕事を見つけなければならない理由はただ一つ。
――妹の食費が高すぎるからである。
……まぁ、可愛いから許すけど。
都市トップのパーティーと言えど、内部は人使いの荒いブラック企業同然だった。今思えば、雇ってくれただけでも感謝すべきかもしれない。
「さて……どうしたものか」
立ち上がろうとしたその瞬間――
「お兄さん、黒い髪のお兄さん。突然ですが、魔術を使いたくないですか?」
「……は?」
誰もいなかったはずの目の前に、赤い髪の少女が立っていた。
今、なんと?
魔術を使いたいか?と聞いてきたこの少女は――どうして俺が魔術を使えないことを知っている?
謎めいた少女との運命的な出会い。これが、俺を新たな世界へ導くきっかけとなるのか――
「……と、その前にお腹が減って死にそうなんですぅ……何か食べるものを……」
――ああ、これはダメそうだな…
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