3びきの悪役令嬢
むかしむかし、あるところに、3人の公爵令嬢がいました。
みんなの名前は
長女が、『イチザベス』。
次女が、『ニニザベス』。
末っ子が『サンザベス』です。
「高貴なお方と結婚して我が家に富と名誉をもたらすのよ! どんな手を使ってでもね!!」
さて3人の令嬢は、母の言う通り、手段を選ばず富と名誉を探しに行きました。
イチザベスちゃんは、王子様と結婚することにしました。
権力を振りかざして、ライバルを蹴落とします。言葉責め、嫌がらせ、オホホホホ、はいすぐに婚約できました。
ニニザベスちゃんは、勇者様と結婚することにしました。
魔法学校で学び、まわりの優秀な女を冤罪で追放して、勇者の前では猫かぶり。トントン拍子、はい勇者のおともに抜擢されました。
サンザベスちゃんは、
「力こそパワー! とにかくパワーだ!」
レベルを上げて、筋力を上げて、物理で殴る、魔王を殴る、女神を殴る、時間はかかりましたが、ようやく安心して魔王の座につけました。
「やったー。」
自分たちで出世ができて、3人の悪役令嬢はご満悦。
すると異世界あるある定番イベントが、3人の元へやってきました。
▼
「イチザベス、おまえとの婚約を破棄させてもらうッ!!」
「……えっ!?」
王子様の隣には、今までいじめていた平民の少女が!
バレたッ! 常軌を逸した嫌がらせの数々ッ!!
「この子のおかげでオレは、真実の愛に目覚めたんだッ!」
「なによ、なによそれ、そんなの……」
言い訳なんて聞きません。
王子様はおそろしい声でどなります。
「よーし、おまえなんか、親父の権力で犯罪者にしたててやる!」
「いやぁぁぁあああああ!!!!!!!」
イチザベスは兵士に両手を掴まれて、地下牢まで引きずられ、あらぬ罪まで被せられ、相当やつれてしまってから、ギロチンで処刑されてしまいましたとさ。
▼▼
「追放だッ、ニニザベス! お前は真の仲間じゃないッ!!」
「いやぁぁぁあああああ」
真実を映す鏡ッ! 宝箱からしれっと出てきたッ!!
うっかり覗いて、醜い本性がバレたッ!!!
せっかく猫かぶってたのにッ!!!!!
「お前がそんな奴だったなんて、信じたオレがバカだった」
「待ってちがうの、鏡、そう、鏡が悪いのよ」
言い訳なんて聞きません。勇者は恐ろしい声でどなりました。
「よーし、それならお前なんて、聖なる波動で吹き飛ばしてやるぞ!」
聖剣から、聖なる波動がほとばしるッ!
「あ〜れ〜……」
ニニザベスは山の彼方へ吹っ飛んで、途中でワイバーンに捕まってヒナのエサにされそうなところをレッドドラゴンのファイアブレスでワイバーンごと焼かれて蒸発しましたとさ。
▼▼▼
▲ ▲
┌───────┐
┃ 魔王城 ┃
└───────┘
気がついたらイチザベスとニニザベスは、真っ暗な場所に2人、座り込んでいました。
「貴様らが我が妻の姉なる者か」
おぞましいドラゴンのような声が響きます。
二人は反射的に抱き合います。
「ようこそ魔王城へ。歓迎しよう」
ボッ ボッ ボッ ボボボボボボボボ!
灯りがともるとそこには、白銀のドラゴン、そして……
末っ子のサンザベスが、ドラゴンに囲まれて、ガイコツ装飾の玉座にひじをつき、三日月みたいに笑っています。
そう。末っ子のサンザベスちゃんです!!
「姉よ、もう大丈夫だ。ここなら地位も安全も快適な暮らしも保証できる。これから一緒に暮らそう」
「妹よー」
「ううっ、うわぁぁ〜ん」
3人は涙を流して抱き合いました。
「あ、魔王城では弱い奴に人権ないから、姉たち、ペットな」
「「 ……え? 」」
「大丈夫、ドラゴンの血をふんだんに分けてやろう」
ドス!
「「 ぎゃー 」」
……
姉2人は血の量に耐えきれずに死んでしまい、プチドラゴンゾンビとなって復活。
妹のペットとなって、膝枕でナデナデされる幸せな日々が始まりました。
▼▼▼▼
「ここが魔王城だな」
とうとう勇者がたどり着いてしまいました。
紫の空、紫の海、荒れた大地にそびえる魔王城。
勇者は聖剣をかまえ、立派な門へと突撃します!
「うおおおおおお、【ブレイブソード】!」
ガキィィィィィン!
無傷ッ!
竜を一刀両断にできる聖剣なのに、ただの門に弾かれてしまいました。
「ククク、我が城の門は全て【ダークマターオリハルコン】製なのだ」
ドドドドドドドド
すると今度は軍隊が、押し寄せて来ました。
「勇者様ー、援軍を用意いたしましたー」
王子様率いる魔導兵軍です。一流の魔法使いたちの集まりです。
「勇者様の道を作る、撃てー」
ドーン ドーン ドドドドドドドドー
大砲よりも強力な魔法が、雨のように降り注ぎます。
ボカァァァァァン!
モクモク
モクモク
モクモク
煙が晴れると……無傷ッ!
魔王城はヨゴレひとつありません。
「ククク、城壁は全て【ダークマターアダマンタイト】製なのだ」
…
すると今度は魔王城から離れた丘に、チートを引っさげた転生者が、空をフラフラと飛んでやってきました。
「ここなら誰もいないな。よし、」
魔法の練習をするつもりのようです。
カッ!
ボォォカァァァァァァァァン!!!
「あわあわ、やっちゃった〜、どうしよう」
転生者が、【核撃魔法】を暴発させました。
海は裂け、大地は割れ、あらゆる生命体は死滅したかに見えましたが、魔王城はビクともしません。
「愚かな人間どもよ……」
煙突からふわりと登場、魔王サンザベスちゃん!!
倒れた勇者、黒コゲの王国軍、あわてる転生者をチラリと見渡すと、
「我が平穏を妨げるものたちよ、死ぬがよい」フッ
チリを飛ばすがごとく、ほんの少しだけ息をふきかけるとあら不思議。
荒れ狂う竜巻!
圧倒的、呼吸筋から繰り出される暴風、木の根を巻き上げ、海を巻き上げ、山をゴリゴリと削って、それでもまるで、止まりません!
物質はプラズマと化しタキオンが荒れ時空が混ざり因果律もぶっ飛んでマックスウェルの悪魔が泣き叫び次元の裂け目がグルグル渦を巻き……
とにかくすごい勢いでどんどんどんどん大きくなります。
1秒も経たずに地球を4割ほど削り取ったところで、
「……」パチン
サンザベスが指を鳴らすと、暗い夜空に紫の海、荒れた大地に魔王城、全てが元通りの景色です。
こうして平穏が戻りました。心なしか、城内にドラゴンゾンビが増えた気がしますが……
魔王サンザベスと、姉だった2匹のペットは、安全安心な魔王城にてこれからも、ずっとずっと幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。