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My らいとにんぐ ♡ Lady2 オウルさんを救出せよ!潮風が誘うヒミツの海底ダンジョン  作者: 佐伯 みかん
第一章 行方不明のオウルさんを救え!命がけの王都脱出
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不安だらけの食事会(2)

「あ、あの!」


 黙っておられず、すぐ手をあげてしまった。ジャンさんの赤茶色した瞳がロウソクの光を反射させて、意見無用とばかりに鋭く光る。その視線に一瞬ひるみそうになりお腹に力を入れ直す。ダメダメ! このまま引き下がったら、弱いままだと思われてちゃうもの!


「確かに、ラーテルさんは強くていつも私たちを守ってくれます。でも……ラーテルさんに頼るばかりでなく、自分でも戦えるように、私もレトも毎日鍛錬を頑張っています。そういう事態になってもみんなで立ち向かえるように」

「アーミー? 俺は?」


 あれ? 横で情けない声が上がった。いっけない! 一人忘れてた! さ、サクヤはほら、いざとなったら桁外れの威力の攻撃魔法が使えるからさあ。右隣のサクヤを振り向き、小さく頭を下げるけど……あちゃー。黒い瞳をうるうるさせて半泣きになってる。わ、悪いことしちゃったかな……。


「……そうだ。今期のメンバーは各々個性を生かし、皆で難題に立ち向かう……良いチームだ」


 今の今まで黙っておられたウルカスさんが初めて発言し、口角を上げて私に微笑んでくれた。わあ! いつも無表情で無口なウルカスさんが応援してくれるなんて! うれしくなって私は何度も頷いてしまう。


「なるほどね。チームか……うらやましいな」


 って、あれ? それまで厳しい顔をしていたジャンさんが突然目を閉じ、とっても深いため息をついた。内心言い返されちゃうかもと背筋を伸ばしていたのだけど……肩を落とし物思いに耽るその姿がとっても寂しそうで……逆に心配になってきてしまう。何か……あったのかな?


「そういえば、オウルさんは?」


 声をかけようかとヤキモキしている間に、意外に早く切り替えたジャンさんが顔を上げ、エルクさんたちにたずねた。オウルさんの名前を聞いた途端、頭の隅に追いやられていた昼間の出来事が急によみがえり、真っ黒い色をした不安の霧が私の胸に立ち込めてくる。


「人手不足で要請が来たとかで、南のティーナの町に調査に行っててだな」


 もちろん、さっきのソロルの話はまだエルクさん達に伝えてられていない。事情を知らないエルクさんが答えると、ジャンさんの顔色があからさまに変わった。え? 何? さらにジャンさんは身を乗り出し聞き返す。


「ティーナ? それはいつ?」


 ど、どうしたというんだろう。ただならぬその焦り方に、私も、他のメンバーも急に不安になり、エルクさんとジャンさんを心配でいっぱいの顔して、交互にみつめてしまう。


「二十日前くらいかな」


 私たちの様子を不審に思ったのか、こちらに注意を向けつつ、エルクさんが眉根を寄せ答えた。


「それは……」


 ジャンさんが口ごもった。なんなんだろう……このイヤな雰囲気……。その先に語られるお話が不吉なものになる予感しかなくて、私の心臓のドキドキはどんどん加速し、緊張と不安でだんだん気持ちが悪くなってくる。


「いや実は、ティーナの町で起きている、灯台の明かりが消えた等の異変は一ヶ月前からギルドにも調査要請が来ていまして。しかし北の悪魔の動きが活発だったのもあり、王都騎士団とギルドはそちらの対応が手一杯でそれなりの人員をさけなかったんです……来週あたりやっと人のめどが立ちそうとギルドで聞いていたのですが、まさかお一人で……?」



『まさか、お一人で行かれる訳ではないですよね?』



 オウルさんと最後にお会いした日、なんだか様子がおかしい気がしてラーテルさんはオウルさんにそうたずねた。その時、オウルさんは何も答えなかった。ただ、心配しないで、と微笑んでいるだけだった。さっきサクヤがソロルに言っていた、「難題を突きつけられた」って、つまりは……そういうことなの??


「港町にも町が独自で運営する自警団があります。そこと協力して調査を行っているかもしれない」


 私たち全員の動揺が伝わったからだろう、ジャンさんがそう付け足した。でもそのジャンさんだってかなり驚いているのは一目瞭然だし。思い出したくないけれど昼間のソロルの声がはっきりとよみがえってくる。



『帰ってこないというのは、つまりはそういうことなのにゃ!』



 ウソ! ウソだよそんなの! 絶対信じたくない!



「もしかしてぇ、オウルさんはぁ、お仕事一人でしてて忙しくてぇ、帰れないってことなのかなぁ? それでソロルって子がぁ、遺跡調査課の課長になっちゃうってことお? オウルさんが帰ってきたらまた交代するんだよねぇ?」


 レトがいつもとは違う、思いつめた声で不安そうに私、そしてラーテルさん、サクヤの顔をぐるりと見渡し、確認するように聞いてくる。わからない! わからないよ……私だって聞きたいよぉ。


「なんの話だ?」


 どうしていいか分からなくて泣きそうな顔をしていると、エルクさんが私たちにそう問いかけた。私とレト、ラーテルさんまでもが取り乱してしまい、自分が言うしかないと思ったのか、珍しくサクヤが答える。


「さっきソロルに庁舎の前で会ってよ。アイツ、来週、王都の議会で決議すれば、遺跡調査課は魔法ギルドの管轄になり、旦那にかわって自分が課長になるって息巻いてやがって」


「なに!?」


 今度はエルクさんが声を荒げ、席から立った。エルクさんのあんなに焦った顔、私は今まで見たことがない。驚いて目をまるくすると、レトもびっくりしたのか私の腕にしがみ付いてくる。エルクさんは、しまった、という顔をして、席に座り直し椅子を引いた。


「そんなことにはならん。あのムスメは勢いにまかせ、好き勝手話す癖がある。私の方で明日確認しておこう。心配することはない」


 ウルカスさんは何も言わない。けれどエルクさんの言葉に大きく頷く。ジャンさんも、エルクさんが確認してくれるなら、と、そこで話を切り上げ、話題を変えてしまった、のだけれど。


 私は今の話で確信した。多分ラーテルさんも、レトも(レトはどうかな?)。そうに違いない。


 オウルさんは王命で、一人、港町の調査に駆り出されたんだって。そして……なぜだか理由はわからないけれど、連絡が取れない事態に陥っているんだって……!


 だって、港町のその自警団っていう人たちと一緒に調査しているのなら、王都のエルクさんや私たちに、調査が長引くとか、いつ帰るとか、手紙や言伝で連絡できるはずじゃない? それが一切ないってことはつまり全部一人で対応してて忙しいか、まさか一人でダンジョンみたいな危険な場所へ行ってるんじゃ……!


 それ以降、私の胸の中では不安と、憤りと、やるせなさと……言葉にできない様々な感情が荒れ狂い、食事が喉を通らなくなってしまった。でも……そのグチャグチャな心の真ん中に、不意に一つ、ある決心が芽生えた途端、感情の嵐は止んで……その代わり、それは私を次の行動へと強く強く駆り立て始めたんだ。



ーー何としても港町ティーナへ行こう! そしてオウルさんを助けないと!



でも王命は「遺跡調査課のメンバーは寮に待機せよ」だし、何より黙ってこっそり寮をでるなど、エルクさんがさせないし、絶対許さないだろう。


 そうだとしても行きたい! オウルさんは上司だけれど……ラーテルさんや、レト、サクヤと同じ、遺跡調査課のメンバー、大切な仲間の一人なんだもの!!


 焦りでヒリヒリ焼ける胸に手を当て、ふと向けた視線の先、ラーテルさんも、食事に手をつけず俯いたままだ。ラーテルさんもオウルさんが心配で心配で、不安で仕方ないのだろう。もちろんあからさまに顔に出していないけど、昼間様子がおかしかったサクヤだって。さっき不安に声を震わせていたレトだって……。もちろん私だって。今すぐにでも駆けつけたいというのがみんなの本音に違いない。


 でも……一体どうやって王都を抜け出せばいいんだろう??

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