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My らいとにんぐ ♡ Lady2 オウルさんを救出せよ!潮風が誘うヒミツの海底ダンジョン  作者: 佐伯 みかん
第二章 潜入! 悪魔の眷属と癒しの女神に守られしティーナの町
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夜の海のコクハク(2)

 もう、なんでこんな時に? そっとしておいてくれればいいのに。


 唇をかんで、必死に手の甲で涙を拭く私を見下ろしたサクヤは、あっち向いたり、こっち向いたり、髪をぐしゃぐしゃにして頭をかいたり。落ち着きないなあ、と思ったら、バケツと釣竿をその場に放ると、私の隣の砂の上に腰を下ろした。


 別荘に先に帰らないの? なんで?


 なんて思いつつ、でも……。で、でも? な、なんなの私!


 ひざこぞうにあごを乗せ、黙りこくる私の隣で、彼は星が騒々しくまたたく空を見上げたとおもいきや、足元を見下ろし、肩をいからさせ息を吸い、ながーくため息をつく。


 ……な、何やってるんだろう、この人。


 そんなこんなで、しばらく挙動不審だったけれど、大きな波が砂に薄く広がり、たくさんのアブクが弾ける音に紛れるようにして、よし! と気合を入れたかと思うと、(聞こえてるよ)、私を勢いよく振り向いた。

 

「だ、だからさ! 大丈夫! ちゃんと俺がいるから! 旦那に任されてるし。怖いとか思わなくていいし、大船に乗ったつもりでいなって!」


 サクヤ……。

 さっきのこと気に掛けてくれていたんだ。き、気持ちはうれしいけれど。



 そういうことじゃないんだよなあ。


 

「あ。も、もも、もしかして、行きたくなかった?」


 なんて言おうか迷っていると、まーたー! 慌ててのけぞり、後ろに倒れそうになっている。そんなサクヤを見ていたらなんだかおかしくなってきちゃった。


「違う、違うの。ううん、その、あの」


 私は彼の優しく光る目をのぞき込んだ。言ったら嫌われちゃうかな? 上目遣いでさらに見つめる。サクヤが言ってみろ! とばかりに、瞳に力を入れ見返してくる。


 不思議……自然と心が落ち着いてくる。


「ずっと気になっていたんだ」


 決心して。胸の中のモヤモヤを、サクヤに吐き出してみた。


「私、やっぱり、みんなにとってはお荷物なんだなって。ラーテルさんやサクヤみたいに強くないし、レトみたいにレアな魔法が使えるわけでもない。本当はみんなに必要とされていない。そんな現実を突き付けられた気がして……」


 なぐさめてほしい訳じゃない。ただ聞いて欲しかっただけ。


 でもそれに対して返ってきたのが、


「お荷物なんて誰も思ってねぇし! それにそもそさ、みんなに必要とされなくたっていいじゃん!」

「ええ??」


 思いもよらない言葉で、私は涙も引っ込んで、目をまるくしてしまった。


「みーんなに必要とされるって面倒よ? 期待に応えなきゃとか、余計なこと考えてさ。それにライバルが増え……」


 いやこっちの話っと、わざとらしくサクヤはせき払いし、続ける。


「人にはそれぞれ役割ってもんがある! 前衛がいて、後衛がいて、ブレーンがいて。みんな前衛じゃ、統率取れねえし。あのクマ、言ってること破綻してんだぜ? 後衛のブレーン役に敵殴ってこいとか、もうアホかと!」


 サクヤってば、横で空に向かって拳を突き上げ怒っている。そういえば、さっきもああやって私に変わって自分のことみたいに、ジャンさんに、怒ってくれたんだよなぁ……。


「役割?」


 聞きえ返すと、


「そう。役割!」


 大げさにうなずいてから、あれ? サクヤは急に、目を伏せ、遠く海を見やった。


「詳しく言えないんだけど。俺さ。昔……戦の最前線にいたことがあんのよ」


 サクヤの視線の先に広がるのは、私が見えているのと同じ、海だ。でもサクヤは、海ではなくて、自分の中にある記憶を見ているようだ。見えるはずのないその景色が気になり、私はサクヤの横顔をじっと見据えた。 


「前日まで騒いで、一緒に飯食ってた仲間が翌朝にはいない、何度もそういうことがあった。持ち場とか役割って戦にもあってさ。だから仲間といつも一緒にいてやれなくて。俺がそばにいたらって、何度も悔やんで、さ」


 言葉を短くきり、ポツリポツリと話すサクヤの横顔に、いつものふざけた様子はカケラもない。これはサクヤ、なの? 夜の暗さもあいまって、別の人みたいな気がしてしまう。私の知っているサクヤがいなくなってしまいそうな気がして、不安で目が離せなくなる。

 

「人が死ぬって、悲しいの通り越して、ただただ虚しいもんよ。つい数時間までうるさく喋ってた仲間がただのモノになっちまう。喋りも笑いもしない、冷たい物質。戦場で死ぬってカッコいい、なんて思ってた時期もあったけど、そんなこたーない。ただただかなしくて虚しいだけさ」


 サクヤが不意に私を振り返った。不覚にもその眼差しにドキリとさせられてしまい。胸に手をやる。


「前にも言ったけど、前のダンジョンでアーミーが俺に「お願いします!」って助けを求めた時、仲間想いのとことか、健気な表情にキュンときたのよ。自分の生死がかかったハードな状況で、仲間を一番に思えるキミの優しさに、一瞬で惚れたわけ。それに、今はこうやってずっと隣で君を見守れる! だから。だから今度は絶対に」


 サクヤが身を乗り出した。いつもならさっさと身をひる返しかわすんだけれど、彼の希薄に気圧されてタイミングを逃してしまった。で、でもあれれ? サクヤ私に飛びついてこない?


「もう今しかないってカンジだから言うけど、これ! あの。俺はアーミーのことがマジで好きです! これからもずっと隣で守り続けたい! だから、付き合ってください! お願いします!」


 そう言うと、どこからともなく、かわいいピンクのリボンがついた包みを取り出し、砂浜に頭を打ちつける勢いで頭を下げた。


 え、えええええええ!? こ、こ、これってコクハクってヤツだよね? し、しかも男子から本気の告白なんて……わ、私、う、生まれて初めてなんだけど……!?


 さっきまで、悩んでいたことが急に吹っ飛んでしまい、私は真っ赤な顔して頬に手をやり息を吸い込んだまま、サクヤの頭をマジマジと凝視したまま固まってしまった。


 で、でもでも、そ、そんなこと、急に言われても……ど、どどどど、どうしよう!!??


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