表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
My らいとにんぐ ♡ Lady2 オウルさんを救出せよ!潮風が誘うヒミツの海底ダンジョン  作者: 佐伯 みかん
第二章 潜入! 悪魔の眷属と癒しの女神に守られしティーナの町
21/29

探検! 発見! お買い物!? ティーナの町

「ここがティーナの中心街かぁ〜!」

 

 肌がひりひりするほど、熱くて強い、真っ白な日射しに、私は思わず手をかざし目を細めた。 


 ミャオミャオと鳴く、白い身体に灰色の羽の鳥が何羽も、シアン色の空を飛び交い、崖の上にそびえ立つ町のシンボルの白い灯台の向こうへと姿を消して行く。


 はぁ〜! この町はすぐ目の前が海って言うこともあり、初めて嗅ぐ、湿った磯の香り? 海の香りで満ちている。しょっぱい香りを乗せた海風を、胸いっぱい吸い込み、深呼吸をしながら、私はもう一度このティーナの町をくるりと見渡した。


 そうなの! 実は、今私たちはまさに、ティーナ市街地の中心部、その中央通りのど真ん中にいるんだ!


 灯台の足下の断崖絶壁に、崖を砂浜に向け階段状に切り崩し、その僅かな平地に張り付くように肩を寄せ合い並ぶ白壁の建物の群れ。


 その中央を裂いて、灯台と斜面の居住区と、崖下の市街地を繋いでいるのは、王都にあったのと同じ急坂を上ることが出来る特殊仕様のトラム。あれが町の人々の生活を支える交通手段になっているんだって!


 崖を切り崩し、海を埋め立てた平地には、観光者向けの宿泊施設や、商業施設、ギルドなどが所狭しとたくさん並んでいるのだけれど、その中でも、もっとも目を引くのはやっぱり、中央に一際高くどぉーんとそびえ立つ、ティーナの町役場だ。


 一階はトラムの終着駅を兼ねた五階建ての石造りの庁舎なんだけれど、地方都市とはいえ、こちらも王都と同じく、輝く白壁に、セルキーや、その仲間の悪魔たちの像が彫られ、とっても趣向が凝らされていて。ここを見学するだけで、半日は過ごせちゃいそうなほどすっごく立派で、驚いてしまった。


 私と同じ、ネオテールの伝記が大好きなラーテルさんも、庁舎に堀られた像に目が釘付けだった。特に、セルキーの隣に寄り添うようにして立つ、尻尾や耳のない、長髪の女性の像が気になっていたみたい……。これが誰だか知っているかって聞かれたのだけれど、たぶん悪魔だと思う、としか答えられなかったんだよなぁ。


 レトに読んであげた絵本もそうだけれど、伝記とかには具体的に悪魔の名前って、敵だったこともあり、のっていないんだよね。たぶん、セルキーが仲間にした悪魔の一人だと思うんだけれどぉ。本屋があったら彼女のことが詳細に書かれた本を探してみようっていう話になった。


 でね。そこを後にした私たちは、その庁舎と海を一直線に結ぶ大通り、素敵なお店がひしめくティーナのメインストリートを、海へ向かおうと歩いているんだよね。


 ここをまっすぐ海へ出れば、観光客がリゾートを楽しむ白い砂浜へと行けるし、さらに浜辺に沿、左右に別れる道をいけば、各大陸の町を繋ぐ大きな帆船が止まる港へと繋がっている。


 つい先ほどまで、市庁舎に寄ったり、トラムに乗ったり(海や町の眺めが最高だった!)、町の歴史が紹介されていたり、セルキーが使っていたとされる武器や、身の回りの品なんかが保管された博物館を兼ねる灯台に行ったりしてね。あ、さすがに絵本に出ていた、セルキーの槍はなくてちょっと残念だったけれど。伝説大好きな私はテンションがだいぶ上がって、観光気分になってしまって……あはは。で、でもね、一応町のシンボルとなる所は調べてみたのだけれど、特にこれといった気になるものはなかったんだよね。


 残すシンボルというと、海の傍に、この前レトに読んで上げた絵本にもあった、例の大きな悪魔が、セルキーと初めて出会った海辺に、記念碑と大きな噴水があるって灯台の受付で聞いてね。で、そこへ行ってみようってなって、私たちはこうしてメインストリートを海に向かって歩いているってわけなんだ。


 そう。


 別荘で休憩をとった後、私たちは再びヘルマさんの馬車に乗り込み、この市街地へと連れてこられた。まずは恐らくオウルさんが今この時も調査しているって思われるダンジョンに入るための入り口を探さなくちゃならない。その調査をするためにどうしても、町へ行かなければならいからね。


 ヘルマさんはヘルマさんで、町に住む「ある人」に用事があるらしくて、とりあえず、人通りの少ない路地裏に馬車を止めてもらうことになった。そこで私たちは調査を、ヘルマさんは用事を済ますため、別れることになったんだ。待ち合わせは三時間後。またこ路地裏に迎えに来てもらうことにして、私たちは急ぎ、町の調査をしている所、



 なんだけれど。



 ほら、私たちってよく考えてみれば、ここにいてはいけない存在じゃない? 事前に聞いていた通り、灯台や海で異変が起きているからなのだろう。大きな観光都市にしては、海に浮かぶ帆船はまばらだし、町を行き交う人の数は少なく閑散として、お店に人も少なくてね。必死に明るく取り繕うとしている様子が、客の私たちにも伝わってくるぐらいで切羽詰まった雰囲気ではある。


 とはいえ、私の村なんかとは比べ物にならないほど、人が多い。


 もし王都の偉い人や、兵隊さんなんかがいたりして、鉢合わせたりしたら大変なことになってしまう。だからいつもの姿でうろうろ町を歩くわけにはいかないって言うんで、ヘルマさんが、ある「アイテム」を貸してくれることになった。


「アーミー、本屋さんがありますよ? 何か役立つ情報があるといいのですが」


 水色の髪を、一本に太くゆるく結いて、垂れ耳の大きな尻尾、紺色の目に黒縁メガネをして、首に銀色の首飾り、レモンイエローのワンピースを纏った大人しめな女性が、大きな本屋さんの前で手を振っている。あ、実はあれラーテルさんなんだ! 全然わからないでしょ??


「本屋さんですか? わあ! 海についての本がいっぱい! セルキーの話もありますかね??」


 そんな私は、淡いピンク色の髪(誰かを思い出させるから、ちょっと戸惑ったけど)を、二つに結いて、長くて細く、ピンとたった耳。緑色の目に、同じく銀色の首飾り。水色のノースリーブのシャツに、ジーンズの短パン姿で、駆け寄った。


 そう、この「銀色の首飾り」。見た目はただの輪っかなんだけれど、不思議な魔法が込められていて、三時間だけ、髪の色や、目の色、尻尾や耳の形を自分のものとは全然違うものへ変えてくれる効果を持っている。ヘルマさんは「蜃気楼」?の力を借りたもので、まだ実験段階だから、市場には出回ってない、だから少しの間だけなら人目を欺くことが出来るって自信たっぷりに貸してくれたのだ。


 サクヤが早速「これがあれば、あんなことやこんなことも!」とか何かよからぬことを企んでいたけれど、すかさずヘルマさんに、その目立つ銀の首飾りは消すことができないから、すぐバレるわい! って冷たく怒られていた。三時間という短時間ではあるけれど、自由に動き回って町中を調査できているからして、とってもありがたいんだよね!



 なこんなで、時間制限があるはわかっているんだけれど。


 

「魚の生態について」、「潮の満ち引きの謎」、「海のモンスター、不思議な海中原生生物」、「これであなたも伝説博士! 深く知る! セルキーの物語」などなど。本屋さん特有のホッとする紙の匂いをかぎつつ、海から遠い王都や、私のいた村では見かけないような本がずらりと表に出されたワゴンの上に山積みになっているのをみて、つい手にとってめくり、のめり込みそうになってしまう。


「ふふふ、アーミーは本当に本が好きなんですね」


 そんな様子を横で見ていたラーテルさんに笑われてしまった。


「あ、すみません! つい……。時間制限があるのに」


 慌てて「魚の図鑑」をワゴンに戻しつつ、頭に手をやると、ラーテルさんが首を振る。


「いえいえ、何かヒントがあるかもしれませんから、時間が許す限りゆっくり見てみましょう、それに」


 そう言ってラーテルさんは私の目を覗き込み、にっこり笑いかけてくれる。


「さっきはちょっと元気がなかったようで、心配だったのです。本や、雑貨屋を回るうちに、アーミーが元気になってきて、安心しました」


 チクリ、と不安が胸を刺す。さっきの悪魔の一件で、トラウマを抱えてしまっていることを自覚してしまった私。悪魔は怖いけれど、それ以上に置いていかれたくはない! という気持ちが強くて必死に首を振って、なんともないフリを装った。


「さっきは、あまりにいきなりだったから、ちょっと驚いちゃっただけです。でもももう平気!」


 くるりと回って、元気さをアピールすると、目を丸くしたラーテルさんが首を横にして優しい笑顔を浮かべる。


「そうですか。ならよかった。後十五分くらいはショッピングを楽しめる時間がありますよ。さっきの貝のヘアピンも、気に入っていたみたいだから、買ってもよかったのでは?」


 あ。実はね、本屋に来る前、お土産屋さんで、貝殻がついた青いヘアピンを見つけたんだ。巻貝でも、二枚貝でもない、不思議な楕円形の貝がついた、シンプルなヘアピンなんだけれど、透明な貝に光が当たると、虹色に輝いてとってもきれいでかわいかったんだよね。ちょっと高かったから諦めたのだけれど。


「だ、大丈夫です! 遊んでる場合じゃないですものね!」


 ここに来る前、灯台でもちょこちょこ雑貨を買ってしまった(とほほ、よく考えればよかった)から金欠、なんて恥ずかしくて言えなくて、あいまいな笑いを浮かべごまかしていると、背後から高くて明るい声に肩をたたかれた。


「あぁ〜! ラーテルさぁ〜ん、アーミぃ〜、みぃつけたぁ!」


 って! 大きな声に、道ゆくヒトが私たちの後ろ、声の主を振り返る。そして。皿まなこで視線が釘付けになるのを見て、その気持ち、わかる、わかるよ〜と、肯いてしまった。


 だってね。


 歩道をかけてくるのは、フッワフワのシルバーに近いけぶるような腰まで届く金色の長髪。真っ青なあの海のような瞳に、ピンクのワンピース。尖った耳に、細長いしっぽ。ちょっと背は低いかもだけれど(身長まではこの銀の首飾りで変えることはできないんだって)。まさに、絵本に出てくる英雄そのものの姿。あれ誰だと思うって、聞かなくてもわかるよね。


「レト! サクヤと一緒だったんじゃないの? サクヤはどこ行っちゃったの?」


 そう、レトだ。今日は満月じゃなくて、男の子の姿をしているけれど、銀の首飾りと借りた衣装のせいで、女の子になっちゃって。しかも豊かな金髪に碧眼。もう、伝説のセルキーのコスプレをしているようにしか見えないんだよね。なんだか女性の私まで、その姿を見るとドキドキしてしまう。


「う、うーんと、ちょっとね!」


 レトがあからさまに、何か隠しています! って顔でそっぽを向く。うちに、その後ろから、ツンツンの赤髪に、同じ燃えるような赤い瞳にはサングラス、アロハシャツにベージュのハーフパンツ姿の、言ってはいけないけれど、ぱっと見柄の良くない不良、みたいなカッコになったサクヤが、こそこそ後ろ手に何かを隠しながらやってきた。


 ん? って、サクヤってば、私が手にしようとしていた「海のモンスター、不思議な海中原生生物」っていう本をじっと見つめている。これ、興味あるのかな? なんとなくそのまま手渡すと、黙ってそれを受け取ってじぃ〜っと見つめて、裏返して値札を確認している。う〜む……そういえばセルキーの絵本の時もそうだったけれど、読書に目覚めたってことなのかな?? ……そんなキャラじゃないんだけれど。でも、読書好きが増えるなら、それって私にとっても嬉しいことだよね。


「じゃぁ、とりあえずぅ〜噴水まで急ごうよぉ〜」


 のんびり屋のレトが、これまた珍しく焦った様子で私の手と、無理やりラーテルさんの手を握り、海へと引っ張る。


「え? でもサクヤは?」


 海岸の方へと引っ張られながらもサクヤを振り返ると、ワゴンの前で例の本を手にしたまま、これまたサクヤにしては珍しく、焦った顔で、私たちを追い払うように手を振った。


「あ、俺、ちょっと用事。三人で先行っててよ」


 え? 海までは一本道だけれど、でも一人で大丈夫かな?


「行こう行こうよぉ〜! ね! アーミぃ〜! サクヤなんて、何かあっても、すごい魔法があるし、大丈夫だからさぁ〜」


 う、うーん。あんまり使って欲しくはないけれど、レトのいう通り、安全の面からすれば問題ないかあ。


「おかしな行動をしないでくださいね。大変なことになりますし、ヘルマさんにご迷惑がかかります」


 男の子のレトに手を掴まれ、苦い顔をしたラーテルさんが、さらにしかめつらしてサクヤに苦言を投げかける。


「わーってる! わーってるって!」


 私とラーテルさんは顔を見合わせ、同時に首をかしげながらも、挙動不審なサクヤを置いて、取り合えずレトに引っ張られて海岸をめざすことにした。


 むむむ。なんだかおかしい。サクヤってば一体何を企んでいるんだろう。……ちょっと心配。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ