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My らいとにんぐ ♡ Lady2 オウルさんを救出せよ!潮風が誘うヒミツの海底ダンジョン  作者: 佐伯 みかん
序章 突然の来客と忍び寄る不吉な影
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むかしむかし(2)

 やさしい風が食堂のすぐ傍に植えられたレモンの木の葉をゆらす。爽やかな香りがかすかに辺りに漂いとっても気持ちがいい。読書するのにぴったりな昼下がりだ。


 レトも寝ちゃったし、なら一人で読書を続けようかな? なんて思ったその時、サクヤに声をかけられる。呼ばれて振り向けば、どうしたのかな? サクヤってばしかめっ面して首をひねり、私が手にした本を指さしている。左耳につけた彼のひし形の黒いピアスが、陽の光を受けてキラリと光った。


「それってさあ、本当にティーナの町の伝説なワケ?」


 私はもう一度、絵本の表紙を見た。うん、間違いない。そこには「ティーナの伝説 セルキーと悪魔の眷属」という題字がデカデカと記されている。


「うん、そうだよ。ほら、題字にもあるし。ここにセルキーさんの絵も描いてあるでしょ?」


 私は「護りのセルキー」という通り名で有名な金髪の女性騎士が描かれた背表紙が、しっかり見える様にしてサクヤに本を突き出す。途端、サクヤの黒い目がまんまるになった。


「なにい!? セルキー!? ちょっと見せて」


 うん、と返事する間もなく、もお、サクヤってば。本をひったくるやいなや……え? すごい勢いでページをめくり始めたじゃないか。


「……いくら金積んだら、こんな話になるんだ?? ってか歌あ? 海賊くずれの大酒飲みが……酔ってくだ巻いてただけじゃねぇか……ってかニョロたんはどこだ? え? まさかこれ?」


 えぇ……意外や意外……。サクヤってば、本なんか興味ないって言ってたのに、実は歴史書に一家言持つほど詳しかったんだぁ。その真剣な表情に驚くやら、感心するやら。今度は私の方が目を丸くしてしまった。けど、そんな私のことなどお構いなしに、サクヤは髪がくしゃくしゃになる程頭をかき、眉間にシワを寄せ、ページをめくり続けている。真剣なのは大いに結構だけれど……さすがに伝説の英雄をつかまえて、どこの資料の情報か知らないけれど、海賊くずれ、やら、大酒飲み、やら言うのは、失礼な気がするなあ。


「ちょっとサクヤ。千年前の人とはいえ、それは言い過ぎ……」

「で、コイツ! じゃなかった。セルキーっまだ生きてんの?」


 またぁ。こっちの話、全然聞いてないんだから、もぉ。ムッとした顔をして見せたけど、サクヤは真剣な面持ちのまま表紙のセルキーを凝視している。はぁ〜。レトにしろ、サクヤにしろ、男の子ってそういうものなのかなあ……私は諦めて、肩をすくめて首を振った。


「まっさかあ。さっき本にも書いてあったけど、千年前の人だもの、もう亡くなってるよ。でも、確か子孫の人が町を継いでるってどこかで読んだなあ。子孫の方もセルキーさんの血を受け継いで歌がとっても上手いみたいだよ」

「歌……歌ねえ……」


 「歌」の部分がなぜか、気に食わないいらしいサクヤは、本をひっくり返したり、表紙を擦ったりしながら「不満」の二文字を隠さずにため息をついた。とはいえ、いつもなら「本なんて枕の代名詞でしょ?」なんてとんでもないことをのたまうサクヤが、珍しく本にご執心のようだから、そっとしておくことにして、私は椅子に座り直した。あの本は気が済んだらサクヤに本棚に戻しておいてもらおっと。そうして脇に置いていた、おばあちゃんのひざ掛けを手に取り、寝こけたままのレトの肩に掛け、そして。


「それにしてもオウルさん、大丈夫かなあ……。調査、大変なのかなあ」


 誰にともなくこぼしてしまった。ティーナという町の名前が出てくるだけで、胸がずきんと痛む。そんなこと聞いても、誰もわかる人なんていないのにね……。


 私達が働く遺跡調査課の責任者であり上司でもあるオウルさんが、港町ティーナで起きている異常事態を調査するため出張に出てから今日で十八日目……。一人で調査に行くわけではないと聞いていたけれど、当初予定の二週間をだいぶすぎているにも関わらず、なんにも連絡がないらしくて……私たちは皆、とっても心配しているんだ。

 実は……その出張自体、私たちが初めてダンジョンを探索しておきた事件を発端としているらしくてね……(詳しくはよかったら1巻を読んでみてね!)調査の詳しい内容については最後まで、オウルさんは明かしていかなかったんだ。


 それに……なんとなくで確証はないのだけれど、前回のダンジョン探索で、私が悪魔であるサクヤを助けてしまったことが、王様や、騎士団や、魔法ギルドを含め、何か見えない大きな力を動かしてしまった……そんな予感している。サクヤは私に気を使ってか、オウルさんに口止めされているのか、何も話してくれないし……。考えているうちに、私の胸の痛みはどんどん増して行く。このままだと不安と痛みに押しつぶされて、突っ伏して泣いてしまいそう……ギュッと目をつぶり、形見の両親のペンダントを握りしめる。神様……! そして、お父さん、お母さん! どうかオウルさんをお守りください! どうか無事でありますように!


 ……。って!


 あ、そういえば。はじめまして! の方は、サクヤ、とか、レト、とかオウルさんとか言っても、なんのこと? ってわからないだろうし、そもそも私のことでさえ、誰? って感じだよね。いけない、いけない! まず先に自己紹介と、そして続けてメンバーの紹介を簡単にさせてもらうね!




 

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