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My らいとにんぐ ♡ Lady2 オウルさんを救出せよ!潮風が誘うヒミツの海底ダンジョン  作者: 佐伯 みかん
第二章 潜入! 悪魔の眷属と癒しの女神に守られしティーナの町
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到着! ヘルマさんの別荘

 ヘルマさんの二頭立ての馬車は、町の最奥、崖の上にそびえ立つ灯台の脇を過ぎ、そのさらに先にある岬先端へと続く林道に入った。


 町の周囲は道が整備され、ならされていたけれど、この辺りは私道みたいなものだからして道幅も狭く、悪いらしい。ガタガタと激しく揺れる荷台、臭いもあるし……うっぷ。もうダメ、酔っちゃいそう、と水筒の水を一口飲んだところで、やっと速度が落ちてきて、ついに止まった! 四人で箱から抜け出し、幌の一部が切り取られ、窓となった箇所から顔を覗かせれば……。


 すごい! 馬車は、私の身長の三倍は優にある黒い鉄製の庭門の前に止まっていた。


 ゆるやかなカーブを描く波の意匠が凝らされた門。その柵の隙間から見えるのは、芝生が植えられた広大な敷地と、そのお庭をぐるりと囲む真っ白な漆喰の塀。そして。お庭の中心には、これまた白壁、大きな窓ガラスがたくさんはめ込まれた荘厳の佇まいの平屋がドーンッと構えられている。あ、あれがヘルマさんの別荘?? す、すごい豪邸じゃない!? さすが商人で、お金持ち……あんな豪勢なお宅に泊まってしまっていいのかな?


「ヘルマ屋敷、スゲエじゃん!」


 ドキドキしている私の横で、洗濯バサミを鼻から外したサクヤがヒュ〜と口笛を吹く。ヘルマさんは答えない。その代わり、どういう仕掛けなのかな? 門番もいないのに、鉄門が錆びた音をたて向こう側へと開いた。


 馬車は敷地内へ入り、豪勢な邸宅の正面へと向かい……あれれ? 予想に反し、急に向きを変え、裏へと回り込む。ヒョロヒョロの幹の先に深緑色の鳥の羽に似た葉をワシャワシャと束ねた珍しい木(ココヤシっていう木らしい。ラーテルさんが教えてくれた)の並ぶ砂利道を抜け、豪華な別荘の裏手、丸い石を積み上げて造られた、灰色の壁に、くすんだ赤いかわら屋根の二階建てのお家の前に止まった。……う、うーん。もしかして、ヘルマさんの別荘は……。


「あれだけもったいぶっといて、こっちかよ!」


 サクヤが鼻にシワを寄せ悪態をついた。あはは。私もちょっと期待していたから、人のこと言えないけど……。屋根の上には尾の長い青い風見鶏がクルクルと回っていたり。わあ、天窓が据え付けてあったり! かなり年紀の入った建物だけど、それがいい味を出してて私はこっちの方が好きかな〜。


「年に一、二度使うか使わんかのシロモノに、あんな面積いるもんかい!」


 後ろの幌が上がって、差し込む眩しい日差しに手をかざす。全く、あのバカ、金に踊らされてどうする! 無駄金ばかり使いおって! とサクヤに引けをとらぬ口の悪さで、ぶつぶつ文句をこぼすヘルマさんが手招きした。馬車を降りなさい、ってことだよね。私たちは彼女の機嫌をさらに損なわぬよう目配せし、荷物を手に、そそくさと荷台から飛び降りた。


 先立って、小股でチョコチョコ歩くヘルマさんが、別荘の扉の前で立ち止まる。肩掛け鞄から大きな赤銅色の鍵を取り出し、鍵を開け、扉を押し開くと中へと姿を消してしまった。私たちも後を追い、ラーテルさん、レト、私、サクヤの順で中へと入る。


「失礼しま〜す」


 わわわ! 外からじゃ分からなかったけれど、こちらの別荘も広い! 入ってすぐが吹き抜けのリビング、ダイニングホールになっている。天井から差し込む夏の明るい日差し。あの天窓はここに光を取り込むためのものだったんだね! 左側には階段。そこを登ると左右に廊下が渡されていて、個室に繋がる扉がここから見える。ホールの奥にも扉が二つ。キッチンと、バスルームに続いているのかな。


「二階に部屋は三つある。階段上って廊下の突き当たり奥はワシの部屋じゃ。手前の二部屋は客室じゃからして好きに使ってええ。クイーンサイズのベッドが一つ置いてあるで、二人で寝てもらうことになるがのう。先に荷物を置いといで。休憩したらここで作戦会議じゃ」


 なるほど。と、い、う、こ、と、は……。


「く、クイーンサイズ!? ってことは!?」


 うっ! 血走った目のサクヤがこちらを振り向く前に……。よかったあ。ラーテルさんが私とサクヤの間にスッと入り込み、微笑みかけてくれる。


「アーミー荷物を持ちましょうか?」

「あ、大丈夫です! ラーテルさん、自分で持てます」

「それでは参りましょう」


 ラーテルさんが手を引いてくれて、私たちは階段を登り始めた。後ろでレトの間延びした声が、ホールいっぱいに響く。チラッと振り向くと。あらま、サクヤってばレトにガッチリ二の腕をホールドされている。


「サクヤはぁ〜ボクと一緒だね♪ 男の子チーム★ よろしくねぇ〜!」

「はああ!? なんで!? 男同士でベッドで添い寝ええ?? 無理無理無理! そういうカテゴリじゃねえぞ、このラノベ!」


 あからさまに拒否するサクヤだけれど、空気を読まないレトは全くこたえていない。


「ボクう、壁際がいいな〜じゃないとぉ、ベッドから転げ落ちちゃってコワイしぃ」

「ちょ!? ガチなの? マジなの!? アーミー助けて!! イヤあああああああ!!」


 あの二人、なんだかんだ言って仲良しなんだよね〜。慌てて前を向き、無視して、ラーテルさんと一緒に階段をのぼり、ヘルマさんの部屋の隣、二番目のドアノブに手をかけ、開ける。


「それでは、後ほど!」


 ラーテルさんがわざとらしく、恭しく礼をして、後ろ手で扉を閉めると、サクヤの絶叫もたちまちそとに押し出され、シャットアウトされてしまった。


 静かになって、一息ついてから、早速お部屋をぐるりと見渡す。部屋の中央にどんと据えられた大きなベッド。備付けのウッドブラインドの扉のクローゼットや、ラタンの涼しげな編み込みの鏡台。そして奥には白枠の出窓! 何が見えるのかな? 荷物を下ろし、思わず出窓に駆け寄る。


「わあ〜窓から海が見えます! 船も!」


 そっか。この別荘は海を背にし、ティーナの港町を真正面に見て、右側。つまり東側の岬の先にあるらしい。この窓の風景は恐らく町とは反対側、湾の外の外海なんだろうな。紺色の海と、港町に向かう真っ白な帆船が数隻、ぽかりぽかりと浮かんでいる。


「こちら側は人も少なくて、静かで良いですね」


 ラーテルさんが出窓を開けてくれた。涼しい風が吹き込み、締め切ったまま部屋特有のよどんだ匂いがスッと抜け、気持ちの良い海風が吹き込んでくる。私たちは、鼻を上げて、胸いっぱい吸い込んで、深呼吸した。はあ〜。鼻の奥にちょっと残っていたエサの匂いが洗い流されていく。ラーテルさんも同じことを思っていたのかな? 「臭かったですね」と声をかけると、クラウンブレイドからこぼれ落ちた後れ髪をなびかせ、眉をへの字にしてうなずき返す。私たちは顔を見合わせて笑ってしまった。


 しばらくして部屋に入り、荷物の片付けを始めたんだけれど。う、うーん、なんて言えばいいんだろう。さっきの出来事が頭から離れなくて、意味不明に胸がドキドキしてしまう。ラーテルさんはオウルさんの事が……。そうならもちろん応援したい! で、でも改めて話題に出していいものなのかな? さっきのサクヤへの態度を見る限り、イヤみたいだったし……。わ、私から言ったりしたら、は、恥ずかしいよね? やっぱり。彼女自身がお話ししてくれるまで、そっとしておくべきだよね!

 心を決め、上着をクローゼットにかけ、スリッパに履き替える。下のキッチンでお茶の準備を手伝おうと、振り向きざまラーテルさんに声をかける。


「あの」

 

 そろそろ下の階に行きましょうか? ヘルマさんのお手伝いもしたいし、と、いうつもりだったのだけれど。


「初めてだったんです」


 思いもよらぬ言葉がラーテルさんの口から飛び出し、私はびくっと驚き、固まってしまった。首だけなんとか動かしてラーテルさんを振り返る。


「え?」


 ぎこちなく漂わす視線の先、いつの間にかラーテルさんはベッドに腰を下ろし、俯いている。


「……男性に、命を助けていただいたのが、生まれて初めてだったんです」


 顔を上げないラーテルさん。な、なんと答えればいいのか、立ち尽くす私の前で、いつもとは全く違う、どうして良いか分からず、戸惑い、その場に座り込んでしまったかのような、か弱い少女の姿のラーテルさんが、ポツリポツリと経緯を話し始めてくれたのだった……。

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