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虹の勇者〜無駄な努力は嫌いなので省エネで異世界を生き抜きます〜  作者: 貴族のサロン
序章 手違いで転生じゃなくて転移しました。
1/1

#0 煌く教室、爆ぜる校庭

 代わり映えがしない。


 今日もまたいつも通り、駅の改札口で定期をかざす。

 ホームを出てバス停に向かっていると、丸坊主の同級生が凄いスピードで追い越してくる。

 大方、野球部の朝練にでも遅れたのだろう。プロ選手になれる訳でもないのに、部活などという無意味なことをするからそういう目に合う。


 下らない。


 通学のバスの中で、”英単語クイズの出し合い“などという非効率なことをするカップルを一瞥する。

 ひとりで単語帳を捲っている方がよほど有意義だ。

 大体今日単語テストがあるからといって移動時間にまで勉強をする必要性があるのだろうか。

 テスト直前に詰め込んで適当に合格点さえ取ればそれでいいじゃないか。


 鬱陶しい。


 バスを降りて校門へ向かうと、生徒会の連中が校門の脇に並んで挨拶週間なる不愉快極まりない活動をしている。

 なぜ朝から挨拶を強制されなければならない。

 それ以前に、生徒会という存在が理解に苦しむ。

 何の見返りもなく、全校生徒のために自分の時間を割いて、何の意味があるのだろうか。




「木村クン、おッッはよ〜〜〜う!!!」

 

 元気一杯な鬱陶しい声が聞こえてきた。

生徒会副会長の白河(しらかわ)の声だ。


「……」


 無言で歩速を上げる。

 こういうのは無視するのに限る。


「何なのよ、アイツッ!せっかく、こ〜〜んなに可愛い咲希(さき)が朝から挨拶してあげてるのに無視するなんて、バッッカじゃないの?」

「まあまあ、瑞季(みずき)もそう怒らずに」

 

 そう言って、白河は不満を言いながら抱きついてきたツインーテールの女子を宥める。

 俺は結構な地獄耳なので、多少離れてもまだ2人の会話は聞こえる。


「大体、何で咲希はわざわざあんな根暗ヤローに声掛けてるのよ?」

「私の目標、全校生徒と友達になるという目標のためナノです。そのためにも、まずはクラスメイトからってことで、今は木村クンを攻略中なの!」

 

 根暗で悪かったな。

 そして、人をRPGのボスみたいに扱うな。

 そもそも、なぜ俺がお前の下らない目標に巻き込まれなければならないんだ。


「ま、うちのクラスには赤生(あこう)黒木場(くろきば)もいるし、結構大変なんじゃない、その目標?」

「もう、そうやって見た目や噂で人のこと決めつけるの良くないよ。それに、2人とも話せばいい人だったりするかもしれないじゃん」


 小柄なショートカットに可愛らしい顔で、誰にも分け隔てなくて、なんていい奴なんだ白河。

 できればその優しさで俺に構わないでいてくれれば、きっと惚れてしまうよ。

 それはさておき、赤生と黒木場ってのは誰だろう。

 うちのクラスにそんな名前の奴はいただろうか。

 まあ、クラスメイトの名前を覚えるなんて無駄な行為は一切行っていないので、端からわからないが。

 学校の有名人な上に、親切にも俺に構ってくれる白河のことは覚えているが、正直、先ほどのツインテールが同じクラスだということも記憶になかった。

 まあ、必要もない情報だからすぐに忘れるだろう。


 


 そうこうしているうちに下足箱の前までやって来た。

 突然、近くにいた1年生がキャッという小さな奇声を上げる。


「2年の鹿紫雲(かしも)先輩と橙田(とうだ)先輩だよ」

「それぞれ、サッカー部のキャプテンとエースで、理系と文系のトップ、それに加えてアイドルばりのルックスってマジヤバ谷円」


 お前の語彙力の方がヤベェ上に、それはもうほぼ死語だろと思いながら、鹿紫雲と橙田とやらを見てみた。


 確かにアイドルのことなどまるで分からない俺から見ても、2人がかなりのイケメンという部類に含まれることは分かる。

 鹿紫雲はガリ勉の様な眼鏡をかけているが、そのダサいガリ勉眼鏡さえも彼の整った顔立ちによって立派なファッションとなっている。

 もう一方の橙田は少し伸びた髪を乱雑に首元で括っているかが、それが彼の持つワンパクそうな雰囲気をより一層際立たせている。


 そういえば、以前彼らをどこかで見た気がする。

 彼らが同じ下足箱の前までやって来たことで、それが同じクラスであったからだということが判明する。


「オ〜〜〜スッ、キムラ!」


 唐突に橙田とやらに肩を組まれ、不快極まりない気分になった。


「……」


 やはり、こういう手合いは無視するのに限る。

 そうすれば多少の悪印象を持たれたとしても、次からは絡まれないだろう。


「な〜んだよ、ノリ悪い奴だな。なっ、興龍(おきたつ)

「ふん、そんな生産性の低そうな奴に話しかけるからそういう無駄な時間が発生するんだ、獅優(しゆう)


 悪かったな、生産性が低そうで。

 俺に言わせれば、人生イージーモードな見た目を持ち、尚且つ勉学にも励んでいる君達エリートはとても要領が悪いと思うけどな。




 そうこうしているうちに教室に着き、静かにドアを開ける。


「……邪魔」


 扉の向こうに立っていた、長身金髪ハーフが突然言い放ってきた。

 俺が素早く右に避けると、スタスタと教室を出て行った。

 お礼もなしなんて、とても素敵な教育を受けて育ったようだな。


「おはよう」


 長身金髪ハーフが去っていった方を眺めていると、教室の中から声をかけられた。

 ドアの一番近くの席に座っていた黄瀬(きのせ)広信(ひろのぶ)だ。


「……おはよう」


 彼は中学からの数少ない友人なので、一応返事はしておく。

 とは言っても、同じ学校に進学したにも関わらず、高校に入学してからは疎遠になっていたので話すのは久しぶりだ。


「今日は、…いつもより少し遅いね。」

「昨日は……、少し遅くまで起きてたから……。」


 歯切れの悪い会話を少しして、自分の席へと向かう。

 俺の席は教室の一番隅の窓際で、1人を好む俺にとっては最高の立地だ。

 左側には校庭、右側にはいつも寝ている男子が見える。

 こいつは今日も寝ているな、というか、こいつが起きているところを一度も見たことがないぞ。

 まあ、俺には関係のないことだが。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 


 その後の1日はつつがなく過ぎていった。

 俺の通う県立高校は”学区内ではNo.1進学校“と豪語しているが、所詮は公立高校で私立とのレベル差は歴然としていて、進学実績も高がしれている。

 そのクセ、授業スピードと課題の量だけは一流で余裕があるのは上位の本の一部のエリートのみであり、平均的な生徒は常に息切れしており、下位の連中は完全に置いてきぼりを喰らっている。


 こんな環境で、親にゲームを妨害されない程度の成績を取ることを目標に、テスト週間のみの勉強で常に中位をキープする俺はある意味優秀だという自負がる。

 今の時代、高学歴でも就職に難儀するのだ、そんな血反吐を吐くように勉強して何の意味がある。

 そんなことを考えながらそそくさと帰宅時準備をする。

 

 この高校は文武両道を目標に掲げ、部活動への積極的な参加を推奨しているため、生徒の入部率は98%を超えているが、所詮進学校の部活で殆どの部活が県下有数の弱小部だ。

 もちろん俺は、そんな馬鹿げた活動で時間を浪費する気は無いので、授業の終了とともに即帰宅して適当に課題を済ませ、有意義な時間を過ごす。

 そして、今日も俺はいつも通りに即帰宅しようと授業終了の直後に教室を後にし、校門付近まで来ていた。

 

【キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン】


 間抜けなチャイムの音が聞こえる。


【2年6組、赤生(あこう)(れん)くん、青海(おうみ)瑞季(みずき)さん、鹿紫雲(かしも)興龍(おきたつ)くん、黄瀬(きのせ)広信(ひろのぶ)くん、木村(きむら)勇斗(ゆうと)くん、黒木場(くろきば)駿介(しゅんすけ)くん、白河(しらかわ)咲希(さき)さん、橙田(とうだ)獅優(しゆう)くん、緑埜(みどの)サラさん、至急2年6組の教室まで来てください。繰り返します、……】


 俺は何もやってないぞ。

 そう、何もやっていない、悪いことも、良いことも。

 それにしてもどういう面子なんだ、白河、黄瀬はともかく、他は知らないやつばかりだぞ。

 いや、知っていたとしても名前は覚えていないが。

 何となく、聞いたことのある名前もちらほらあったような気もする。

 ともかく、今行かなければ、明日より長い呼び出しを喰らう可能性もあるので、素直に行ってやろう。


 


 教室の扉を開けると、とても元気な声が聞こえた。


「ヤッホー、木村クン」

「オーッス、キムラ」


 白河と朝の長髪イケメンだ。

 言わずもがな、無視一択だ。

 そのまま、教室の自分の席に向かう。


「な〜んだよ、また無視かよ」

「こんな陰険で無能そうな奴に話しかけても時間の無駄だと言っただろう、獅優」


 不満そうな長髪イケメンを眼鏡イケメンが嗜める。

 というか、朝よりも俺の評価が悪くなった気もするが、まあ他人からの表現など気にも留めていないのでどうでもいいが。


「オッキー、よく知らない子のことそんな風に言っちゃダメだよ。話せばいい子かも知れないじゃん」

「そもそも、会話に応じすらしないだ。良い奴もクソもないだろ」


 白河の注意にイケメン眼鏡は冷たく言い放つ。

 やっぱり、白河は俺に構わないでさえいてくれれば完璧な良い奴なのにな、と思いながら席に着く。

 ふと隣を見れば、いつもの居眠り男子が机に突っ伏している。

 お前も呼ばれたのか、というか、授業が終わってからもずっと寝てたんじゃないのか。


「サラちゃ〜〜〜ん、今日もカワイイね〜♪、咲希のプリティ〜な感じもいいけど、サラちゃんのビュティーな感じもいいよ♪」

「……邪魔」


 教室の真ん中の方では、今朝のツインテールが長身金髪ハーフと話している、というよりはツインテールが一方的に絡んでいる。

 それにしても、どうやらあの長身金髪ハーフのボキャブラリーは1語しかないらしい。


 バァンッッッ


「お前ら、ギャーギャー、うるせーんだよッ!」


 廊下側の隅の席に座っていた茶髪の不良が、机を蹴って立ち上がった。

 かなりの高身長に不良そのものな装いで威圧感があるが、かなりアホそうだ。

 そもそも、うちの高校にこんな奴がいたことが驚きだ。


「失礼します……」


 教室の空気が凍りつく中、黄瀬くんがおどおどしなが、入ってきて教室中の耳目を集める。

 いや、正確には隣の居眠り男子以外だ。


【キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン】


 また、間抜けなチャイムが流れる。


【集まってくれて、どうもありがとう。これから君達には○★#〆☆♪で新たな人生を送ってもらうよ。それでは早速いったみよ〜!】

 先程と同じ声でありながらも声のトーンが変わり、突飛なことを告げる放送に全員が困惑していると、突然教室中が眩い光に包まれ目を開けているのが難しくなる。

 あまりに唐突な出来事に奇声を上げている者までいたが、俺は窓の外の校庭に目をやってより一層パニックになった。

 

 翼の生えた男子が窓際を飛びまわり、金髪の女子が六角形の透明なアクリル板の様なものを両手の指に貼り付けている。

 2人の回りには爆発が起こり、男子は飛びまわりながら、女子はアクリル板でいなしながら回避している。

 男女は共にうちの高校の制服を着ており、更に不思議なことに爆発音は全く聞こえない。

 俺はその異常な光景を前に完全に思考力を奪われる。

 突然、金髪の女子がこちらに振り向く。


「大丈夫だよ。いってらっしゃい」


 爆炎やそれによる土煙で、女子の口元は愚か顔も全く見えず、より強くなる教室の光に俺も目を開けていられなくなっていたが、何故かそう言われた気がした。

 とても懐かしく、心地いい、そんな声が聞こえた気がした。




初めての投稿で至らないことだらけだとは思いますが、たくさんの人に読んでいただけると嬉しいです。


*誤字、脱字等あれば、報告していただけるとありがたいです。

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