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「こんにちは!」
ふわふわとした赤毛のパーマを揺らして青年は明るくあいさつした。ヨワには見覚えのない人物だ。リンもなにも言わないところを見ると青年に心当たりはないらしい。
青年はすらりとした長身で大きく一歩中へ踏み込んできた。思わずあとずさったヨワからくりくりとした水色の目は視線を外さない。
「ヨワ、僕はユンデだよ」
突然名前を呼ばれてヨワは戸惑った。横から訝しげなリンの視線を感じた。数多くの覚えていない同級生の中にユンデがいたかもしれない。ヨワはそう思って曖昧に返事をしながら愛想笑いを浮かべた。
するとユンデの長身に見合った長い腕が伸びてきてヨワは抱き締められた。
「わーい! ヨワが笑った。うれしいっ」
とっさのことにヨワはなんの反応もできなかった。
「ねえねえヨワ、僕かっこいい? かっこいいでしょ?」
背中に回ったユンデの手がぎゅうっとヨワのローブを掴む。体重を預けられてヨワの体は傾いた。まったく事態が飲み込めないがひとつだけ確信した。同級生でヨワを抱き締める男性などいない。
「ん~。ヨワのにおい、お花だね」
「ひっ」
ヨワは自分の目を疑った。ユンデがいきなり胸元に顔をすり寄せたのだ。男性にこんなことをされたのははじめてだ。どう対応すればいいのかわからない。混乱に固まるヨワを後ろに下がらせたのはリンの手だった。リンは鞘に収めたままの剣を横向きに突き出してユンデに離れるよう勧告した。
「お前何者だ」
ユンデは大人しく下がったが、リンの質問には答えず頬をふくらませた。
「リンばっかりずるいんだ! いつもヨワといっしょにいるくせに」
リンの名前を知っていたばかりでなくユンデはヨワとリンが行動をともにしていることも把握していた。得体の知れない恐怖を感じる。まさか彼がルルを殺しヨワを狙っているかもしれない犯人なのか。




