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リンは片足の甲で器用にも剣をくるくるともてあそびながら、腕組みして首をひねった。
「使えるというか、ご利益があるというか」
「お守りか!」
ひょいと蹴り上げた拍子に剣が宙を舞う。それはふわりと吸い込まれるようにリンの手元へ戻った。
「使うって感じじゃないんだよな。痛いし」
ヨワはますますわけがわからなくなった。魔法使いが魔法を発動する際に痛みを伴うなど聞いたことがない。消耗するのは気力と体力だ。特に精神力の強さが効果に大きく影響する。魔法を使い過ぎた時は体が石になったように重く怠く感じて、意識を保っていられず眠りにつく。ヨワはユカシイからそう聞いていた。
「城つきのレッドベア家の魔法使いが言ってたんだけど、俺の血はたくさんの血と混ざり合って魔法が劣化したらしい。だけど魔力は失ってないんだって」
「どういうこと?」
「魔法を発現させることはできないが、俺の血そのものには力がある」
リンは窓枠から身を離すと剣を腰に収めて肩を指先で叩いた。
「前に野盗を捕まえようとして肩を斬られたことがあった。流れた俺の血が熱く感じたんだ。そしたらなんだかいつもより調子よくってさ!」
傷を負って調子が上がるなんて、とヨワは呆れかけたがそこで気がついた。それこそがリンの血の力だ。
「つまりリンは怪我をすればするほど強くなるってこと? 諸刃の剣じゃない」
「まあそう言うなって」
リンはヨワの隣に座り込んでにかっと笑った。
「魔法っていろんな形があるんだね」
薬を調合するベンガラとハジキの姿が思い浮かんだ。彼らの魔法は手をひとつ打ち鳴らせば薬ができあがるというものではない。薬草とそれを煎じたりすり潰したりする技術と知識、それらが魔法と合わさりはじめて効力をもつものへと変化する。




