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「演習に来た騎士団が俺を見つけた。今の父さん――シジマさんが最初に声をかけて保護しようとした。でも俺はまだ、あの人を、信じていてその場から動くのを嫌がったんだ。バカだよな」
ヨワはきつくひざを抱えて歯を食い縛った顔を伏せた。
「私だって同じだよ」
どんなに突き放されても親にすがってしまう。なんてバカだと嘲笑う自分に気づきながらみじめな希望を捨てきれない。リンの言葉はすべてヨワの思いでもあった。
「ヨワは? 話してくれるか」
リンはやわらかく問いかけてくれたが顔を上げることはできなかった。ストレスに鱗を掻き壊さないようにヨワは自分の両手首を捕まえていた。
「私の母は不義をしたの。私はその相手との間に生まれた子ども。ホワイトピジョンには跡継ぎがずっと生まれなかったから、母も私も追い出されなかった。でもそれも義妹のルルが生まれるまでの話。ルルが生まれると両親はあっさり私を女中に押しつけて別宅に住まわせた。それまでは叱りつける時くらいしか目を合わせてくれなかったけど、別居してからほんとうに、会ってくれなかった」
にわかににじんできた涙を乾かそうとヨワは力を込めて目を開きつづけた。
「別居してから会ったのは一度だけ。私が中学を卒業した日。父は私にホワイトピジョンと名乗ることを禁じ、家から出て行けと言った。あの人たちは名家のプライドを守ることばかり考えているから、不義の、汚点でしかない私の存在をどうしても消したいの」
ヨワは流れ落ちた涙を拭った。その手の甲に硬い鱗の感触がして、この病を母が毛嫌いしていたことを思い出した。幼いヨワがベンガラからもらった薬をぬってといくらせがんでも、結局母シトネは鱗に触れてくれなかった。
「あの人たちが憎い」




