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片ひざをつき顔を背けたままリンはやけに飾ったことを言った。ヨワの中でリンに言ってやりたい言葉が様々に浮かんできたがどれも声にならない。正直、今まで怒っていた相手に突然バラを差し出されたらそれは、パニックだ。恐怖と言ってもいい。ヨワはリンの腹の底がわからなくなり、思いきって額を床にこすりつけた。
「すみませんっ、すみません! もうしません。二度としませんから許してください!」
「なんでそうなるんだあああ!」
「ひいっ。リン落ち着いて。早まらないでお願いだから!」
リンの奇抜な行動はだいたいスオウ王とススドイ大臣のせいだった。
リンは懸念していた遅れもなく約束の時間ぴったりに王と謁見していた。そこでリンはヨワが護衛も結婚の相手も自分を嫌がっていること、そして大学の後輩ユカシイとヨワは恋人関係であることを報告した。どちらについてもヨワには言いたいことがあるがリンはもちろん知り得ない。
すると王はリンの予想通り深い理解を示す、なんてことはなかった。
「『女同士で子どもができると思ってんのかバーカ。なんの解決にもなりゃせんわ。とっとと性教育をやり直して、この際愛人でもなんでもいいから娘を押し倒せこのタマなし』って言われて殴られたんだ」
なんとも包み隠さぬ物言いだった。だがスオウ王ならあり得る。
しかしその助言はあまりにも直球過ぎたため、リンはその後ススドイ大臣から女性の心を掴む手解きを受けた。リンがいくら好かれるどころか嫌がられていると言っても聞く耳を持たれなかった。まさに板挟みだ。そして強引にバラを持たされ、ヨワにかける第一声はさっきの通り、それ以外は許さんと半ば脅されているところへスキンヘッドの騎士からの一報が入った。




