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釣り上がった太い眉にへの字に引き結ばれた口は、どう言い訳をしてもほころびそうにない。ヨワはとりあえずから笑いを浮かべてみた。
「このバカヨワ!」
スキンヘッドの騎士により西区フラーメン大学の自宅に強制送還されたヨワを待っていたのは、これまた怒り心頭に発しているリンだった。激しく扉を閉めて代理の騎士が帰ったとたん、その怒号が飛んできてヨワはリンが帰っていたことに驚く間も許されなかった。
「正座!」
リンの足元を指さされヨワは慌てて正座した。あのスキンヘッドの騎士が馬を取りに城へ戻った時、ヨワが勝手に港町に行ったことを誰かに話したに違いない。その話がリンのところへ持ち込まれるのは当然の流れだ。もしかして自分のせいで王様にも会えなかったのだろうか。しかしヨワは怖くてまともにリンの顔を見れなかった。
「護衛の騎士をまくってどういうことなの! なにやってんのお前。って違ーう! そうじゃなくてっ」
だがどうもリンの様子がおかしい。
「もうさあ、俺がさあ、せっかくこうやって板挟みに苦しんでるのに。ってもう! これも違う! あああめんどくせえ!」
登城中、リンの身に一体なにが起きたのか。まさか、清く正しく守られていないなんて礼儀のなっていない護衛対象だとリンが責められたのだろうか。しかしそれは高貴な王様の意見で、騎士たちからはちょっとくらいじゃじゃ馬のほうが守りがいがあるってもんだと逆に褒められ、それで板挟みになっているということか。確かに怒るかどうか迷うところだがこの際ヨワとしてはお説教をなしにしてくれるとありがたい。
ふとリンが静かになったことに気づき、ヨワはおそるおそる顔を上げてみた。すると目の前に一輪の赤いバラが差し出された。
「ご機嫌麗しゅう、お嬢さん。今日は一段とお美しいですね」




