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夫ベンガラは乾燥させた百種もの草や根っこを薬研で粉状にしてぬり薬を作る。虫刺され、あせも、かぶれ、あかぎれ、竜鱗病。皮ふの問題はなんでもござれ。妻のハジキは薬草とハーブを煎じて飲み薬を作る。痛み止め、かゆみ止め、睡眠を助ける薬。長い年月をかけて培われた技術と知恵から生み出された確かな苦さだ。
ヨワは生まれた時からこの老夫婦の薬を使いつづけている。薬師の実力もさることながら、そこに吹き込まれる魔法の力も素晴らしい。証拠? 彼らを見ればわかることだ。
ハジキはハーブティーのおかわりを出す際にそっとヨワに耳打ちした。
「でもね、うちの人ヨワに言われてから香りのいい花を薬に混ぜるようになったんですよ」
ヨワはくすくすと笑った。知っている。前々回はスイセン、前回はラベンダーだった。さて今回はどんな香りで嫌な時間を癒してくれるのだろうか。
「ハジキさんは薬を甘くしてくれないんですか?」
「病は気から。苦いほうが効くと思うでしょう?」
彼女にはきっと一生敵わない。ヨワはハジキの薬を飲んだ時のように苦笑いした。
「お喋りするなら、どうして湿疹が悪化しているのか話してくれんか」
ベンガラはヨワとハジキの間に薬袋をずいと突き出した。
「それは……」
言葉を探す間を埋めるためにヨワは袋の中身を確認した。うっすらと黄緑色をしているかゆみ止めが入った瓶が二本に、湿疹を抑えるぬり薬が入った貝が五つ。それと、症状がひどくなりかゆみで眠れなくなった時のための睡眠薬が入った小瓶がひとつ。
いつも通りの量だ。だがホッとしたのも束の間、ベンガラは「いつもより少し強い薬にした」と告げた。ヨワはため息をついた。
「やっぱり護衛のせいかな」
「あいつか」
ベンガラは遠くからこちらをうかがっている騎士をにらみつけた。




