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リンの肩に手を置いてシジマはつづけた。
「お前ほどの身のこなしと剣技を備えた者は騎士の中でもそうそういない。よくがんばってるな」
リンの表情はヨワから見えない。だがなんとなく向けられている背中から喜んではいないと感じた。ヨワにもわかる。シジマが言うのはブラックボア家の者ではない騎士の中での話だ。シジマはリンの実力を認めながら打ち合いに手を使わないハンデを課していた。圧倒的だ。ブラックボアとそうでない騎士の間には、努力では埋められない差が横たわっている。
そしてリンはヨワが思った通り魔剣の魔法を使うことができない。ユカシイのように魔法の弱体化が原因だろうか。それともリンは希に魔法を受け継がずに生まれてくる子どもだったのか。
「そういうことだったんだね」
彼が騎士の鍛練に拘る理由がわかった。
「父さん。ずっと聞きたかったことがある。その答えによっては、俺は正式に王に任務から降りると申し込む。たとえどんな罰を受けようとも」
ヨワは息を呑んだ。ドキドキと走る胸を押さえてひとことも聞きもらすまいと耳をそばたてた。それと同時に言い知れない悲しみが身を震わせる。リンはやはりヨワの相手も護衛も嫌だったのか。やさしいから今まで言えなかっただけなのか。
シジマは大剣を消してまっすぐリンに目を向けた。
「俺を、ヨワの相手に選んだのはなぜ。他にも恋人がいない騎士はいたはずだ」
リンは剣先を床に突き立て、柄に両手を乗せて項垂れた。ポタタと透明な雫がこぼれ落ちる。祈るようなその背中が少し震えているように見えた。
「やっぱり俺が、本当の子どもではないから?」
ヨワは目を見開きリンの姿を見つめた。ブラックボア家には見られないカラスのように黒い髪、黒い瞳。魔剣の魔法を使えない理由。それらはリンがシジマとオシャマの子どもではないからだったのだ。




