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あんまりやり過ぎると本当に独り占めしていると思われるのに、彼は一生懸命で気づいていない。ほら、クチバが怪訝な顔をしている。エンジなんて悟ったように生暖かい眼差しを向けているのに見えていない。
「ヨワ、浮遊の魔法を使う時ってどんな感じだ?」
自分では答えられない質問を受けてリンの困った顔が振り向いた。
「風に身を任せるの。押さえられたものを解き放つ感じ」
ヨワは目を細めて微笑んだ。
「わくわくして、楽しくて、うれしい。魔法を使ってる時はいつもそう感じるよ」
「そう、なんだ」
それを境にリンはお喋りをやめて大人しくなったが、シジマ一家との食事は最後までにぎやかで居心地がよかった。
食後、ヨワはせめてものお礼にとオシャマの洗い物を手伝った。リンはしばらくリビングでシジマと話していたが「久しぶりに稽古をつけてやるか」と誘われて移動した。護衛任務があってリンの鍛練が滞っているのかとヨワは気になった。
洗い物をしながらオシャマは息子たちのことを話してくれた。
エンジは長男ということもあって気配りができて、面倒みがよく責任感が強い。だがその分、ひとりで溜め込む癖があるという。
次男のクチバは兄弟の中で一番背が低く小柄な体をコンプレックスに感じている。だからこそ負けん気が強くがんばり屋なのはいいが、少々短気で口が荒いところは直して欲しいそうだ。
四男のスサビは中学六年生の十七歳。達観しているところもあるが本来は兄たちとおふざけが大好きな明るい子だという。だが今は将来のことに悩み、家族と少し距離を置きたがっている。
オシャマは最後に三男リンのことを話した。その声には慈しみがあふれていた。
「リンは、あの子はね、人の痛みをわかってあげられるとってもやさしい子なの」
ヨワは深くうなずいた。




