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向かい側の真ん中の席に着いたクチバがそう言って父をたしなめる。その隣にエンジが座り、角を挟んでシジマ、さらに角を挟んでリンの横にオシャマが腰かけた。
「へえ。クチ兄に今時の恋愛がわかるんだ」
これで全員食卓に着いたと思っていたヨワは、リビングから聞こえてきた新たな声にびっくりした。遅れてやって来たのはまだ学生に見える男の子だった。両親ゆずりの褐色の髪を後ろでちょこんと結び、長めのサイドと前髪が表情に影を落としている。
また人が増えたと緊張しているヨワに向かってきて、少年は気だるげに言った。
「ヨワさんでしょ。知ってるよ。僕は四男のスサビ。よろしく」
そうしてスサビはヨワとろくに目を合わせず向かいの端の席に座った。よりによってなんだか取っつきにくい人が目の前に来てしまった。シジマのかけ声で食事がはじまった時ヨワはそう思った。
だが実際に口布を外して食事をしていると、ヨワはあまり居心地の悪さを感じなかった。それを手助けしているのがリンと、意外にもスサビの存在だった。スサビはにぎやかな会話をする両親や兄弟の輪には入らず黙々と自分のペースで食事を進めていた。時々話を振られるがその返しはなんとも素っ気ない。だが家族は誰も気にせず話を繋げていく。ヨワはスサビから、無理に場の空気に合わせることはないと言ってもらえたような気持ちになった。
それにスサビは終始うつむき加減で顔にかかる前髪も相まって、ヨワにも目の前の皿にも大して興味がないように見えた。自己紹介の時に顔を合わせたきり、ヨワの頬をじろじろ見るどころか顔も上げないのだ。
彼の正面に来るようヨワを座らせたリンはここまで予測していたのだろう。ヨワに投げかけられる質問にできるだけ答え、視線の盾になってくれているリンの横顔をそっと盗み見る。




