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「それなら助けて欲しいんですけど」
どうやら話に加わる気はない三兄弟にヨワが助けを求めると、三人は兄弟らしく息を合わせて「無理」と言った。そして本当にヨワをひとり残して解散してしまった。ヨワが一番期待していたリンは二階に上がっていった。なんて薄情なやつ。
しかしシジマの聞き役に徹しているとありがたいことに時間は早く過ぎていった。単調な相づちをくり返している内に疲労からうつらうつらしていたヨワは、オシャマの「ごはんだよ」という声に起こされた。
ダイニングテーブルを覗き込んでみるとそこにはにんじんのグラッセとブロッコリーが添えられたデミグラスハンバーグ、かぼちゃのスープ、トマトとたまねぎのマリネ、バターライスが並んでいた。まるで料理店のような出来映えにヨワは感嘆の声をもらす。シジマが自慢したくなるのもうなずけた。
だがヨワはおいしそうな料理を前にして困った。飲み物ならともかく、食事となると口布は外さなければならない。気心の知れたユカシイとロハ先生の前なら平気だが、出会ったばかりのシジマ一家に頬の湿疹を見られたくなかった。
「ヨワはここに座れよ」
ダイニングに下りてきたリンが端のイスを引いてそう言った。彼はヨワの返事を待たず隣の席に座った。その意図を察するのは難しいことではない。リンのやさしさに感謝しながらヨワは端の席に着いた。
「あらあら、リンったら。ヨワちゃんを独占したいのね」
麦茶を運んできたオシャマはくすくすと笑った。
「独占欲が強い男は嫌われるぞ」
母を手伝って麦茶を配りながらエンジがにやりと笑いかける。リンは慌てて否定したが誰も聞く耳を持っていなかった。
「え、独占すると嫌われるのか?」とシジマ。
「昔と今じゃ違うんだよ、父さん」




