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なんというか全体的にかわいらしい家だ。名家や騎士の威風を吹かせていない。ホワイトピジョン家の近づきがたい雰囲気がまったくない。
「ん? どうしたんだヨワ。早く来いよ」
オシャマにつづき玄関に立って振り返ったリンがそう言って微笑む。なんでもないちょっとした仕草なのにヨワは涙がにじんだ。
「ん。今行くよ」
リンに気づかれないように目元を拭い、ヨワはそろそろと玄関を潜った。
「ママー! どこ行ってたんだい!? 帰ってきたらきみの姿が見えなくて心配したよ」
とたん、大男がオシャマに抱きつく場面が目に飛び込んできた。いや、大男はシジマだ。我が国の第十番隊騎士をまとめる隊長だ。思いきり鼻の下を伸ばしてオシャマの胸に頬ずりしていようとその事実は変わらない。
「あら、あなた帰りが早かったのね」
オシャマは平然と夫を抱き締め返しのほほんと言った。
「なんだ、リン帰ってきたのか。忘れ物?」
シジマの後ろからひょこりと顔を見せたのは副隊長でありシジマ家長男のエンジだった。エンジはヨワに気づいて目をぱちくりさせた。
「母さーん。腹へったー」
服の裾に手を突っ込み腹を掻きながら正面の階段から下りてきたのはトサカ頭だった。クチバは玄関にいるリンを見て、次にヨワに視線を移しクワッと目を見開いた。
「あー!」
指をさし、ドタバタと残りの階段を下りてきたクチバは指先をヨワに突きつけた。
「俺を吹き飛ばしやがった暴力女!」
今度はコリコの樹のてっぺんまで吹き飛ばしてやろうか? よほど言う前に実行に移してやりたいと思ったが、クチバの両親がいる手前ヨワは引きつった笑みを浮かべるに留めた。するとリンがヨワとクチバの間に入って興奮する兄弟をなだめた。
そういえばリンは何番目の息子なのだろう。




