06
ヨワは早く帰りたい気持ちで幹の上に昇るリフトに乗り込み、興奮から大きなささやき声で話すユカシイに生返事をくり返した。それでも抑えていたユカシイがついに歓声を上げたのは、城の正門を潜り抜けた時だった。城は壁も床も天井もピカピカに磨かれた真っ白な大理石でできていた。明らかに必要以上の燭台が左右の壁に取りつけられ、目に痛いほどの光を放ち床や天井が無闇やたらと照り返して一滴の影も許さない様子だった。
この光は光明の魔法使いの魔法だろう。
歩き出す前に振り返り見た空は東が赤く染まり、西の暗さを浮き彫りにしていた。その間にそびえるカカペトの山際は金色に輝いている。まるで朝焼けも夕焼けも見分けがつかない。それはヨワの愛する時間が昼を越えて再び巡ってきたかのようだった。
重々しい門に絶景を閉ざされてヨワはしぶしぶ足を動かした。
「おお。よくぞ参った。浮遊の魔法使いホワイトピジョンの娘よ」
ヨワとユカシイが謁見の間に通されると驚いたことにスオウ王はすでに壇上の王座に着いていた。王族とはもっと優雅に朝を迎えているものだとヨワは思っていたが、スオウ王はまるで何時間も前から起きていたように密色の髪も口ひげもきれいに整っていた。脇に控える王の実弟にして関白を務めるススドイ大臣も涼しげな表情で沈黙している。いや、こちらは心なしか目元に影が見える。あまりの激務に寝る間もないだけか。
「うん? 娘がふたりいるではないか。どちらがホワイトピジョンだ」
ヨワはユカシイの視線に気づいていたが、口布の下で唇をへの字に結んで黙っていた。するとスオウ王はススドイ大臣に目を向けた。ススドイ大臣は咳払いをひとつして、ヨワとユカシイを連れてきたふたりの騎士をにらみつけた。とたん、あわてふためく騎士を横目に見ているとユカシイが小突いてきた。