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身内だけでひっそりとおこなわれたというルルの葬儀をヨワは新聞記事で知った。家族に、家族と思われていない事実を改めて突きつけられた一連のできごとは、ルルの死亡とともにヨワの心奥深くにふたをして閉じ込められた。
このふたを開けることは苦痛を伴う。ヨワは拳を握り締めた。
「どうしてリンは私の護衛をしているの」
「ヨワには、混乱を与えないように黙っていた」
リンはまっすぐにヨワと向き合った。
「ルル・ホワイトピジョンからわずかに睡眠薬が検出された。彼女はヨワの言う通り落ちてなんかいない。誰かに眠らされ殺されたんだ」
リンはわずかに目を伏せてつづけた。
「愉快犯か、名家に恨みを持つ者の可能性も捨てきれないが、犯人が次に狙うのはヨワ。お前の可能性もあるんだ」
頭が真っ白になったあとヨワの中にあったのは空だった。恐怖も絶望も、不思議と不安も生まれてこない。唇を強く引き締めていなければおかしなことなんてなにもないのに笑みがこぼれ出てきそうだった。
「そっか」
存外、軽い声が出た。一度空になったヨワの心にぽつんとひとつの感情がようやく生まれた。それは――
「なんでそんな軽く言うんだ」
「だって、私が死んでも悲しむ家族なんていないもの」
諦め。ヨワはやっぱり堪えきれなくなって小さく笑った。足元にすり寄ってきたネコをなでてやりながら思う。このネコも今目の前でヨワが死んだとしてもなにも感じないだろう。ユカシイとロハ先生はやさしいから心を痛めるかもしれない。それはそれでありがたいし、申し訳なく思う。だけどヨワが本当に見たい涙はきっと流れない。そんなことをまだ心の隅で願っている自分が滑稽だ。
「なに笑ってんだよ」




