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「山男として興味がないと言えば嘘になるが。俺はもうちょっとピカピカした“石”のほうが好きだ」
「金か」
バナードはしかめ面をつくった。
「山小屋を回すにはもちろん、山を守るためにも先立つものは必要なんだ」
「いつも私たちをもてなしてくれるのは?」
ヨワは首をかしげた。
「タダじゃない。ロハ先生から金をもらってる。でも心配することはない。研究資金として大学から出してもらえる」
こんなにちゃっかりしている人だったのか。胸中で思いながらヨワは苦笑った。山開き中の山小屋の儲けだけでどうやって一年間過ごしていけるのだろうと考えたことはあったが、彼に関しては無用の心配だった。
「じゃあまたひとりでここに居残るんですか」
ユカシイの問いにダゲンは「いや」と首を振った。
「騎士がいつ何人体制で来るとか動向がわからない。ふもとの町の屯所で情報を待つよ。そうだな、こっちには用意があると伝えとくか」
そう言ってダゲンは足早に二階へ上っていった。きっとロハ先生はまだ伝書ハトを飛ばしていないだろう。
山小屋での最後の夜、ヨワとユカシイとリンはカードゲームで大いに羽目を外し、その勢いのまま寝袋を投げ合い、恥ずかしい思い出を暴露し合った。
ヨワの恥ずかしい思い出は寝ている間に浮遊の魔法を使ってしまい、寝ながら宙をふよふよ漂って気づいたら教室の机の上にいたことだ。清掃のおばちゃんに目撃され笑われたことは今振り返っても居た堪れない。だが、リンが兄弟間でしかけ合った数々のいたずらを話した時は、ヨワもユカシイも身をよじらせいつまでも笑いが止まらなかった。
そうして気づけば三人とも雑魚寝で朝を迎え、名残惜しい気持ちを抱えながらロハ先生とバナードとダゲンとともにカカペト山を下りた。




