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早く、早くと急かされても強めにと言われるとなにか浮遊させる対象がないと難しい。ヨワは仕方なくこの場にいる全員に向けて魔法を放った。
「まだ! この空間隅々まで」
宙に浮かび上がりながらロハ先生はさらに煽ってくる。ヨワは戸惑った末、地面ごと浮かべるイメージを頭に描いた。
「わお! やっぱり。僕の仮説通りだ!」
「なんなんですかもう! このままだとあたしたち天井に押し潰されちゃうわよ」
ユカシイの叫びを聞いてヨワは慌てて魔法を弱めた。ところがロハ先生はそれを許さない。頭が天井にぶつかって首を曲げながら「ほら見て!」と地面を指す。
「ヨワも自分に魔法をかけて見てごらん。ユカシイ、もうちょっと辛抱して」
ヨワはなんとか力の比重を変えてロハ先生、ユカシイ、バナード、リンを中空に漂うようにして地面にかける魔法の強さを増し、自らも浮かび上がった。天井は全体が青く煌めいていた。ユカシイに受けとめられ振り返り見た地面はもっと神秘的だった。
青く走る天の川に一際強く光る星々。まるでカカペト山から見上げる夜空のように美しい光景が足元に広がっていた。
「ほら。あのくすんだクリスタルの周りをよく見て」
ロハ先生に言われ注目してみるが一見して変わったところはない。くすんだクリスタルの実が他のものより少しだけ青色が濃いということくらいだ。ヨワはそこから伸びる根っこを辿ってみた。すると、くすんだクリスタルの実から離れれば離れるほど光が弱くなっているようだった。
いや、そうではない。
「くすんだ実の周りに力が集まっている?」
「そうだよヨワ! その通り」
「えっと、つまりどういうこと?」
ユカシイは首をかしげた。
「つまりクリスタルは、あのくすんだ実に取り込んだ魔力を集めている。あれが後々に僕たちの魔力を増強させてくれる魔石になるってことだ」




