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それぞれランプに火を灯し、洞窟の奥を目指す。こういう時に光明の魔法使いがいれば一瞬で周りを明るくしてくれるのだが、かの一族はそろいもそろって夜型の人間だった。今頃はきっと熟睡中だろう。
ロハ先生はいつも以上に注意深かった。ランプをあちこちにかざしてはなにか変化は見られないか探していた。きっと盗賊が入った形跡がないか調べているのだろう。ヨワも足元や岩壁に目を凝らして歩いた。
クリスタルに近づくほどに心臓が早鐘を打つ。ロハ先生が振り返ってそろそろだと告げると、リンが先頭を替わった。ヨワはいつでも魔法を放てるように心の準備をした。
「その先だよ」
ロハ先生の声にリンは足を止め、手でしゃがむようにうながしランプの火を消してと指示した。辺りが真っ暗になる直前、ユカシイの手がヨワのローブを掴んだ。しかし暗闇は完全に視界を奪わなかった。奥がぼんやりと青白く浮かび上がっていた。クリスタルの光だ。
リンは剣の束に手をかけて壁に体をこするように前へ進んだ。もし盗賊にこの場所が見つかっていたら相手が何人いるかわからない。ヨワはロハ先生の制止を振り切ってリンを追いかけた。
近づいたヨワにリンはむっとしかめ面をつくった。だがこんな状況で派手に追い払うことはできないとわかっていたヨワは、ひるまずに身を寄せて洞窟の奥をうかがった。そこには誰もいないように見える。耳を澄ましてみても水音だけが聞こえる。
ヨワはリンをうかがった。彼はうなずいた。
リンが先に奥へと進む。すれ違うのもやっとなほど狭かった道が突然開けて、天井は暗くてよく見えないくらい高くなった。中央にぼんやりと青白く浮かぶものがある。
油断なく警戒していたリンが剣から手を離した。
「誰もいない。だいじょうぶだ」




