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リンはダゲンに提案した。
「しばらく騎士を巡回させるよう進言するつもりです。ダゲンさんとふもとの農家たちの安全のために。明日、もう一度伝書ハトを飛ばしてもらえますか」
「もちろん、いいとも。こちらとしても頼みたい。だが俺はそれよりもあんたらの明日の予定が心配だ。クリスタルのところへ行くのか?」
ヨワはこんな形で調査が中止になるかもしれないとは考えもしなかったので落ち込んだ。カブト盗賊団が何人いるか、武器は所持しているか、それをまとめるリーダーはどんな人物か、なにも情報がない。ダゲンの懸念に従って明日には下山するほうが賢明だ。
だがヨワはこのまま帰るなんて嫌だと思った。恒例の登山は毎回めんどうくさいけれども、鉱物学研究室の仲間と充実した時間を過ごせる楽しみでもあった。疲労の中にはっきりと感じる達成の喜び。今帰ればそれを得られないどころか、盗賊と遭遇した嫌な思いしか記憶に残らない。また二ヶ月が経って登山の日が巡ってくる度に、それを思い出すなんてことにはなりたくなかった。
「そのことをずっと考えていたんだけれど」
ロハ先生が組んだ手をテーブルについて身を乗り出すように言った。
「僕はむしろクリスタルの木へ行きたい」
バナードが驚いて先生の名前を呼んだ。この返答にはヨワも予想外だった。
「もしかしたら盗賊にあの場所を荒らされているかもしれない。クリスタルの無事を確かめたいんだ」
ロハ先生は「もちろん」と早口で言葉をつづけた。
「みんなに危険は冒せられない。特にヨワとユカシイは教師としてすぐにでも下山して欲しいと思う。だから僕はひとりでも行くつもりだ」
「それはダメだ。単独行動は危険過ぎる」
すかさず反対したのはバナードだった。だが彼はそのあとにこうつけ足した。
「私も行こう。先生、あんたの勇気と情熱に心打たれたよ」




