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「さあな」
「知らばっくれるのが遅いな。カブトっていうのは? お前らのボスか?」
「うるせえよ」
盗賊たちが反発するごとにピリピリと張りつめていく空気が、ますますリンを冷徹にヨワから遠く離していくように感じた。
ふとリンが剣先を床から持ち上げたのが目に入り、ヨワは堪らなくなった。
「リン」
声をかけるとリンは驚いた顔で振り返った。ヨワは彼の元に駆け寄り、盗賊たちを一瞥してもうすぐ夕飯だとダゲンからの伝言を告げた。
「あー。ヨワ、ちょっとこっちに」
リンはヨワを盗賊から離して納屋の扉のほうへうながした。向き合ったリンの顔を気まずさとは別に見ることができず、ヨワは下を向いた。
「怖がらせてごめん。あいつらに乱暴なことはしないから安心しろ」
降りかかってきたリンの声はいつもの通り明るくて暖かい。
「あいつら、そんなことしなくったって自分から喋りそうだしな」
陽気な声に誘われて顔を上げたヨワの目の前に、にっかりと笑うリンがいた。少年のようにあどけない表情なのに、その笑顔はひどくヨワを安心させる。この人に一方的な暴力を振るわせたくない。そんな突拍子もない思いが浮かんできてヨワは苦笑した。
「許してくれた?」
「許すもなにも、あなたは悪いことはしてないよ」
「あれ。さっきは名前で呼んでくれたのに」
「そうだったかな」
先に行っててくれ、と言われヨワはひとりで納屋から出た。風に乗って山小屋のほうから食器の触れ合う音が流れてくる。山の上はまだ冬の空気が残っていて肌寒い。でもヨワはちっとも不快に思わなかった。
一番最後に食卓についたリンはぐるりとみんなの顔を見渡して、ふたりの盗賊から聞き出した情報を話した。カブト盗賊団という名前は誰も耳にしたことがなかった。そしてそこからわかることで気がかりなのは、あのふたりの他に仲間がカカペト山にいるかもしれないということだった。




