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「じゃああたしは先生とバナードさんを呼んでくるわ」
「ありがとう。そうすると私は……」
ハッとしてヨワは座敷へ向かおうとしているユカシイを引き止めた。
「な、なんでそうなるのっ」
「先輩、そんな過剰に反応すると意識してるみたいですよ。呼びにいくだけじゃない」
そう言われるとヨワは反論できなかった。
気まずさを抱えながらヨワは山小屋を出て、少し離れたところにある納屋に重い足取りで向かった。リンは太い柱に山賊の男ふたりを縛りつけて見張りをしている。この二週間、極力ふたりきりになるのを避け夜はすぐに寝たふりをしてきたヨワに突然降りかかってきた窮地だ。リンを突き放したかと思えばこんないたずらをしかけてくるユカシイを恨む。
まるで山賊の根城にやって来たかのようにヨワはそろそろと近づいて、引き戸の隙間からそっと中の様子をうかがった。
「俺たちは山賊じゃねえ。盗賊だ!」
リンのものではない声が聞こえてきた。よく見ると小汚ない男たちはふたりとも目を覚ましていた。縛られたままジタバタと暴れる彼らを前に、リンは鞘に収めたままの剣を床に突き立て賊を見下ろしていた。ヨワにはリンの顔まで見えなかったが、その出で立ちからは今まで感じたことのない威圧が放たれていた。
「どっちもやることは同じだろ。山にいるから山賊だ」
低い声でリンはわざと相手を煽るように言った。
「違うわい! 俺たちは誇り高いカブト盗賊団だ」
「バカ! お前黙れよ」
盗賊の片割れが仲間の足を蹴って口を閉じさせた。ヨワが気づいたように盗賊の男も気づいたのだろう。これは尋問だ。悪人から情報を絞り出すために騎士がしばしば取る手段。強情な相手には暴力をもって吐かせることが許されていると噂に聞いたことがある。
「へえ。仲間がいるんだ」
ヨワの耳にリンの声はことさら冷たく響いた。




