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「暇じゃないぞ」
山小屋の主人ダゲンのてきぱきとした指示によりヨワは沢へ水を汲みに、ユカシイは山菜摘みに、リンは薪割りをすることになった。毎度のことなのでヨワとユカシイはため息をつくだけに留まったが、リンは顔を引きつらせていた。水も燃料も食料も自分で確保しなければならない山小屋生活には必要なこととはいえ、六時間も山を登ってきた身にはなかなかの重労働だ。
しかしこの大変さを身をもって知っているだけに、お世話になるダゲンばかりに任せるわけにはいかない。
「夜はピザにするからしっかり働け!」
ダゲンのひとことでヨワ、ユカシイ、リンのやる気が上がった。そこへ山小屋の窓から「がんばれえー」と言ったのは年長組のロハ先生とバナードだ。年齢を考えると待機なのはわかるがいい身分である。
「さっさと終わらせて休もう」
そうユカシイに声をかけてヨワは大人がすっぽり入る大きな水瓶をふたつ宙に浮かべた。
「ヨワ、それだいじょうぶなのか。水入れたらかなり重いんじゃないか」
ダゲンから斧を渡されたリンが水瓶を指さして言った。
「余裕です」
「先輩それ終わったらこっち手伝ってくださいね」
ユカシイに手を振って応え、ぽかんと立ち尽くすリンの姿に気をよくしてヨワは沢へつづく丸太の階段をとつとつと下りていった。
冷たい風が下から吹いてくる。気持ちがいい。リュックを背負っているようで実は背負っていなかったのだが、荷物を置いて身ひとつで歩くというのは解放感が違う。ヨワは誰も見ていないことを確かめて口布を取り、フードを脱いだ。
風がヨワの干し草色の髪をすく。思わず両手を広げ山の清らかな空気を全身で感じた。
「ありがとう。歓迎してくれる? またお世話になるね」




