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それにしてもよくあれだけの元気が残っているものだとヨワは呆れて、ユカシイが残していったリュックを魔法で運んであげた。ダゲンの作るアップルパイのファンであるヨワもユカシイにつづいて駆け寄ることもあった。だが今日は昨夜の寝不足が響いていて思考も体の動きも緩慢としてしまう。三〇〇〇メートルを登りきってヨワはあくびが出そうになるのを噛み殺していた。眠い時、緊張した時に起こるこの運動はヨワの場合、少し体調が優れない時にもよく見られた。
「よく来たな。パスタを作って待っていたよ」
ひとりひとりと握手を交わしながらダゲンが言った言葉に、ヨワとユカシイは顔を見合わせて喜んだ。昼をとっくに過ぎた十四時。休憩の時に家から持ってきたチョコやキャンディでごまかしていたお腹も限界だ。ダゲンは料理が上手い。中でも自作の窯で焼いたピザやアップルパイはそれを目当てに全国から登山者が集まってくるほど評判だ。
ヨワはさっそくみんなのリュックを山小屋に運び込んだ。この時ロハ先生ははじめてヨワの魔法に気がついて「ありがとう」と言った。山開き前の小屋は貸し切りだ。ヨワは遠慮なくリュックの山を座敷の真ん中に築いた。
ダゲンのパスタはこしょうを振っただけなのに魔法をかけたようにおいしかった。ベーコンの塩気と香り、たまねぎの甘味、きのこのプリプリとした食感が舌を飽きさせない。ダゲンの料理をはじめて食べたリンは夢中でパスタを頬張っていた。
「じゃあみんな、いつも通り今日はゆっくり休んで明日朝一番でクリスタル観察に向かうからね」
みんなの胃袋が満たされるのを見計らってロハ先生は今後の予定をそう告げた。
「え。今日クリスタルのところに行かないんですか」
声を上げたのはリンだ。日が暮れるまでまだ少し時間がある。それまで暇だな、とこぼした彼の肩をダゲンが後ろからがっちりと掴んだ。




