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だがリンだけは元気だった。ヨワは結局彼のリュックに魔法をかけてあげなかったのに、リンはみんなを励ますように一番前を歩いている。さすがは騎士といったところだ。
ヨワはそろそろ頃合いと見てロハ先生のリュックに浮遊の魔法をかけた。ひとり仲間外れにするのは気が引けたのでついでにリンのリュックも浮かべてあげた。先生はやっぱり急に荷物が軽くなったことをヨワの仕業とは思わないで「僕には登山家の素質がある」と言ってまた元気に歩き出した。
調子よく追い越していった先生の背中に苦笑を送っているとリンと目が合った。とっさに逸らそうとしたヨワよりも早くリンはにっかりと笑って「ありがとう」と言った。それにどう返したらいいのかわからないままリンは背を向けて歩き出した。
たとえ魔法の効果を知っていたとしても瞬時にそれと理解できるものではない。ロハ先生のように言わなければいつまでも気づかない人だっている。リンの鋭い感性は騎士の訓練を積んできた賜物か、名家ブラックボアの血か。あるいはその両方か。
「へえ。わかってるじゃない」
ユカシイの言葉にヨワは素直にうなずいた。リンの実力の片鱗を垣間見た気がした。
カカペト山をふもとから登りはじめて六時間。一行はようやく八合目に到着した。すでに太陽はてっぺんを過ぎて山肌を照らす日光はわずかに黄金色を帯びていた。
ひと息つく一行の中から突然ユカシイがリュックを放って駆け出した。風になびく金髪を目で追いかけると後輩は山小屋からちょうど出てきた壮年の男に飛びついた。いつもお世話になっている山小屋の主人ダゲンだ。ダゲンは受けとめたユカシイと二、三、言葉を交わしてえんじ色のニット帽を取りこちらに向かって手を振った。




