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「悪夢より、ひどいよ……」
体をまるめて深呼吸をくり返し明日のためになんとか寝ようとしたが、結局窓の外が白みはじめるまでヨワは寝つけなかった。
カカペト山に降り注いだ雨は地下を通りコリコ国の湖に湧き出ている。そのひざ元に生きる命に脈々と清涼なる水の恵みを与えるカカペト山をコリコの人々は古くから尊び大事にしてきた。種々様々な草木、四季折々に咲く花が見られ動物たちにとってもここは楽園だ。
「これはヤエスミレだね。あれはハンカチの木。まだつぼみだが、ヤエスミレのほうは週末にでも咲きそうだ」
山に入ってからバナードは別人のようにお喋りだった。目につく植物を指さしてはすらすらと名前を口にして、どんな花が咲くかその香りに誘われてどんな虫が寄ってくるか、はたまた家庭での育て方を語った。熱心に聞いているのはユカシイで、ヨワはその横を歩きながら失礼にならない程度に相づちを打つに留めていた。うっかり質問なんか返したらバナードは酸素不足になるまで喋るのをやめないだろう。
それを知ってか知らずか、ロハ先生は張りきって先頭を歩き会話には参加しない。リンはヨワの後ろにいて、彼がバナードのガーデニング講座を聞いているのかわからなかった。ユカシイが熱心なのは女を磨くための知識ならそれを本当に実行するかどうかは別としてなんでも取り込む収集癖があるからだ。
「ハンカチの木はその名の通り、枝に引っかかった白い布みたいなものをつける。一見花のようだがその白いのは実は包葉と言って、花を包む葉っぱなんだ」
「へえ。バナードさんって野菜だけじゃなくて、植物全般詳しいんですね」
それまで静かだったリンが深く感じ入ったようにそう言った。バナードは半身振り返り口元に笑みを浮かべて、
「私は〈ナチュラル〉だからな」
と返した。




