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すでに学者仲間と何度も訪れたことのあるカカペト山への行き方も、仲間について歩いていただけのロハ先生はおぼろげにしか辿ることができなかった。ヨワとユカシイという生徒をつれて迷子だけは避けたかったということだ。
その時ロハ先生が声をかけた農家というのがバナード・ロードだった。頭頂部が薄くなった白茶の髪、黄色い目、くっきりとタンクトップ焼けした肌にあご先の筆のようなひげが印象的だった。最初ひとりでぽつんと草むしりをしていた彼をバナードだとは誰も気づかなかった。
バナードは親切に道を教えてくれたが、こんな田舎道でも不安そうなロハ先生の様子に心配になったのか山道はだいじょうぶだろうな、と聞いた。先生はなにも言えなかった。するとバナードはなんとすぐにも支度して八合目までの案内を買って出てくれた。以来、バナードの希望もあって山登りには彼が毎回同行するようになった。
ヨワとユカシイとしてもバナードの心遣いは大変ありがたかった。
「やあ先生。日づけを間違えたかとヒヤヒヤして待っていたところだよ」
ロード農園と書かれた大きなアーチの下で待っていたバナードはそう言ってロハ先生をにらみつけた。先生が慌てて謝ると大農園の主はパッと表情をゆるめて快活に笑い「冗談だよ」と言った。
バナードはヨワとユカシイに久しぶりだね、とあいさつし、リンには自己紹介をしようとしたが黒髪の騎士はそれを遮った。
「あなたのことは存じています、ロードさん。いつも城に新鮮でおいしい野菜を届けてくださりありがとうございます」
「おや、きみは城で働いているのかね」
「騎士です。あなたの野菜は騎士たちの間でもとても評判です。トマト嫌いな王も、あなたの農園でとれたものなら食べると聞きました」




