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キラボシと紳士は打ち合わせでもしていたかのようだ。あれ? と首をかしげるズブロクを真ん中に残して、リンとヨワの距離は少しずつ離されていく。
今にも人垣にヨワの姿が見えなくなりそうになり、リンは身を伸ばした。その時、キラボシの潜めた声にたしなめられた。
「しっかりなさい、リン。私に恥をかかせるのはあなたの身にならないわ。騎士ならひとりの女のためでなく、万人を思って行動するべきでしょう。あなたの血にはその力があるのよ」
引きずられ、もつれ、もがいていたリンの足がぴたりと地を掴んだ。
「違う」
力を込めた反動でキラボシの体がよろめいた。
「俺の血はヨワのためにある。竜の呪いから彼女を解き放つために。俺の血がヨワの肌に効いた時そう確信した」
「な、なに言ってるの。そんなものではないのよ。あなたの真価は」
「それ以上はいらない。なにも。俺は魔法使いじゃない。騎士だ」
「そうよ。だから騎士として万人のために働きなさいと言ってるの」
「違う。俺が誓ったのはスオウ王と俺の家族。そしてヨワだけだ」
言葉をなくしたキラボシに向かってリンは笑いかけた。
「キラボシは天才なんだろ? 自分で道を切り開けるよ。俺は俺を必要としてる人のそばにいる」
笑みに影が差す。
「ヨワは俺がいないとダメなんだ」
リンは踵を返した。袖になにか引っかかり、見ると紫のマニキュアを塗った指だった。ヨワへ向かう足を邪魔するものは、わずかな重力でもわずらわしい。
「あなたの血の能力、元を辿れば治癒魔法よ。あなたはもともとレッドベア家のもの」
それはキラボシのとっておきの話らしかった。彼女の手を振り払い、鼻で笑う。人目がなければそうしていた。




