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司会者の合図でクラシカルな音楽が鳴り、立食パーティーがはじまった。
「ベンガラさん! ハジキさん!」
繋いだ手を引かれて見ると、ヨワ行きつけの薬屋を営む老夫婦がこちらに来るところだった。
ふたりとも当主と同じ裾の長い作務衣で、ベンガラは青、ハジキは赤の帯を締めている。レッドベア家ではこれが礼服で、会場内でも半数がこのスタイルだった。
案外、制服でも浮いておらずリンはヨワの分まで安堵する。しかし若い女性は全員ドレスをまとっていた。
「なんでえヨワ。お前さん普段着と変わらねえな」
ベンガラの歯に衣着せぬ言葉にびっくりしたのはリンのほうだ。慌てて横目で様子をうかがうと、ヨワは口をむっと吊り上げていた。
「ヨワの晴れ着、見たかったですものね」
ハジキがやわらかく笑うと、ヨワの曲がった口からも笑みが飛び出す。ヨワが傷つく心配など、彼らの間柄では杞憂だった。
「リンはちょっと見ない内に立派になりましたね」
「いえ、そんな」
「ふうん。キラ嬢が目の色変えるのも一理あるってか」
「目の色変える?」
特殊な血のことか? と首をかしげたリンとベンガラの間に突然、ヨワが体をねじ込んできた。
「その話はいいの! ベンガラさんはお酒でも飲んできて!」
近くのテーブルに向かってヨワはベンガラの背中を押していく。ハジキが微笑みを湛えながらゆったりとそのあとを追っていった。
「どういうこと?」
戻ってきたヨワに尋ねると彼女は困った顔をした。なにか言いかけては、うまく言葉にならないヨワの向こうから見慣れた赤髪がやって来た。
「こんなところでヨワに会うとは思わなかったよお」
庭番の仲間、ズブロクはそろいの燕尾服で着飾った男性をつれていた。彼はいとこだと紹介される。




