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「ヨワ、それって」
「これ式典用のローブなの。だからちゃんとした礼服だよ」
足元を見てみるといつもの動きやすいハイカットスニーカーではなく、桃色のヒールのあるパンプスだ。手には白い手袋。髪もサイドだけ残して後ろはきっちりとまとめ、植物をモチーフにした銀の髪飾りで留めてある。
パーティーに行く意識はあるようだ。確かに制服はそれこそが礼服である。リンとて燕尾服を選ばなかった。しかしこういう時、女性はてっきりドレスを着てくるものだと思い込んでいた。
「そっか。ヨワらしくていいな」
リンは笑みが寂しく映らないように努めた。ヨワが制服を選んだのは肌を見せたくないからだ。竜鱗病を気にして、せっかくの着飾る機会でも自分を押し殺している。本当はスカートに憧れているというのに。
「じゃあ行こうか」
ヨワの手を取って南門の外へ導いた。
俺は気にしないよ。のどまで出かかった言葉を飲み込む。あと一時間もせずパーティーがはじまってしまうというのに、その言葉がなんの慰めにもならないとわかっていた。
それに、リンがよくてもヨワは安心できない。ふたりきりの場なら喜んで着替えたかもしれないが、今宵は大勢の視線がある。医師の一族とはいえ、竜鱗病にどれほどの理解があるか知れない。はじめて実家で食事をした時のようにリンが守りきることは不可能だ。
リンはヨワの手を握り直した。降り積もる歯がゆさに足元が覚束なくなりそうだ。
「本当に、中途半端だな」
魔法なら、魔法のように彼女の呪いを一瞬で消し去れよ。
皮ふの下を巡る血潮に毒づく。不思議そうに名前を呼ぶヨワに、リンは腹減ったと情けなく笑ってみせた。




