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彼女とリンが同居している話は真実らしい。まじめな彼を思えば女性とひとつ屋根の下で暮らすことは、同棲と捉えてもいいだろう。
自分の考えにキラボシは薄く笑みをこぼす。それは取るに足らない話だった。
「こんばんは」
ひかえめなノックのあと引き戸から緑の目が覗いた。ホワイトピジョン家らしい干し草色の髪にその目は珍しいが、他にこれといって取り上げることのない平凡な女性が所在なく医務室を見回す。
「ようこそ。お入りになって」
イスの上で体ごと向き直り、キラボシは客人にもイスをすすめながら歩いて腰かけるヨワ・ホワイトピジョンをゆっくり観察した。
歩き方は静かだ。しかし品があるというよりはおどおどしている。背中も少し丸まって指をいじって、漂う雰囲気が貧相だ。腰かける仕草もていねいだが、自信がないとも言える。
顔立ちは良くも悪くもない。故に化粧映えはするかもしれない。でも彼女は決定的な欠点を抱えている。それが貧相で自信のない立ち振舞いにも影響している。
キラボシはヨワの頬に手を伸ばし欠点に触れた。びくりと震えた肩に哀れみの微笑みを浮かべる。
「突然呼び出してしまってごめんなさい。新薬の研究にあなたの血のサンプルも必要なの」
「いえ、とんでもないです。キラボシさんには感謝しています。協力は惜しみません」
空をさ迷う緑の目。無理に調子を合わせて落ち着かない声。キラボシの言葉ひとつひとつがナイフに見えて怯えているようだった。
それも仕方ないことと理解する。きっとヨワは欠点である竜鱗病のせいで、これまで心ない視線や言葉たちに晒されてきたのだ。キラボシの元にも何人か竜鱗病患者が来たことがある。病の症状や患者が抱える悩みは知っていた。




