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「そう! クリスタルはただ単に魔力に呼応し、その力を内に溜めるだけじゃない。これが不思議なことにクリスタルに溜められた魔法は強化されることがわかっているんだ。僕はそのメカニズムを解き明かしたいんだよ。そうすれば希少なクリスタルを使わなくても自在に魔法を強化できるようになるかもしれない。もっと言えばね――ふふん。これはまだどこにも発表していないことなんだけど。魔力を溜めるクリスタルの性質を技術化できれば絶滅に瀕している魔法だって半永久的に保存することが可能なんだ。どうだ、素晴らしいだろう。ああ、早くクリスタル観察をしたいよ。クリスタルの素晴らしいところといえば――」
こうなると先生のお喋りはしばらく止まらない。ヨワはユカシイに身を寄せて「ありがとう」とささやいた。後輩は得意げにウインクした。
リンは自分から話を振った手前ロハ先生の話に耳を傾けないわけにはいかず、その勢いに話の腰を折ることもできないだろう。もうヨワが大学進学した理由なんて忘れているはずだ。それを確かめるため、ヨワはそっとリンの様子をうかがった。
「魔法の強化……絶滅した魔法の保存……」
意外にもリンは深く興味を引かれたようにロハ先生の言葉をぼそぼそと反芻していた。相手が関心を持っているかどうか、さすが教鞭をとっているだけありロハ先生は敏感に汲み取る。そして注目されればされるほど弁に熱が入るのはもはや職業病だった。
これは長くなりそう。ヨワとユカシイはため息をついて麦茶に差したストローをずずっとすすった。
それからロハ先生が本来の質問を思い出して、
「あ、登山の参加者はもうひとり増えるよ」
と取ってつけたように言ったのは、みんなのコップの氷がすっかり溶けて消えた頃だった。




