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「おや。今日はもうひとりいるんだね。新しい生徒かい?」
ようやくユカシイの手を離したケビンの声に後ろを振り返ると、目を吊り上げたリンが扉のところに立っていた。ヨワは「げ」と声をもらした。
「店に寄るなんて聞いてないぞ。あやうく通り過ぎるところだったんだからな」
そのまま通り過ぎてしまえばよかったのに、とヨワは思ったがユカシイが素直に謝っていたので黙っていた。するとリンはヨワを見て大きく息をついた。姿を確認して安心したような息づかいだった。
ヨワはドキリとした。ひと月毎に会っているケビンだって今日ここにヨワがいなくても大して気にしない。彼が気に留めるのはユカシイがいるかどうかだ。いつだってそう。男性はみんなユカシイに注目してヨワはその影に隠れていた。探されることなんて今までなかった。
ハッと我に返ってヨワは頭をぶんぶん振った。これは護衛、これは護衛。あの人は王の命令に従っているだけだ。
「そんなに頭振ると目が回るぞ」
にやりと笑い嫌味を込めて話しかけてくるリンにヨワは「うるさい」と返した。
ロハ先生がリンは騎士だと紹介したがケビンはあまり興味がないようだった。どうして今回に限って騎士が同行しているのか誰もが抱きそうな質問さえされなかった。
ケビンの案内でヨワたちは中央の大きなテーブル席に並んで着き、ロハ先生はいつものように弁当用のサンドイッチを人数分よりひとつ多く注文した。いつも昼食をごちそうになっている礼代わりだった。数分で出てきたオリジナルサンドを一斉に頬張る。ソースやチキンの味に負けないくらい新鮮なたまねぎの甘味を感じた。
「トゥイグ教授、ずっと気になってたんですけど」
麦茶でサンドイッチを流し込みながらリンがロハ先生に尋ねた。ロハ先生は「先生でいいよ」と言ってから先をうながした。




