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コリコの樹の根っこの隙間を埋めるように小さな家がごちゃごちゃと連なる城下町の風景とは打って異なり、野外区は遠目から見ても立派だとわかる家がぽつりぽつりと建っているのどかな場所だ。そのおだやかさは人々の人柄にもよく表れていた。
途中、道端でキャベツの余分な葉っぱを取り除いていた農家の男性は、ロハ先生に向かって気さくにあいさつした。その農家と会うのはまだ二回目だったはずだが、彼は一行が鉱物観察のためにカカペト山へ行くことを覚えていた。先生が驚くと農家の男性は「ひと月毎に来る時期をみんな覚えているから、その日が近づいてくると話題になるんだ」と話した。少し照れくさかったがヨワは胸が温かくなるのを感じた。
「そうそう。パン屋のケビンが首を長くして待っているよ」
別れ際にそう教えてもらった通り、ケビンズベーカリーの店主ケビンはヨワたちが昼頃店に着くと熱烈に歓迎してきた。ロハ先生とヨワには軽く握手をし、ユカシイの手は両手でしっかりと握り締めてなかなか離そうとしなかった。
ケビンのパン屋がある場所はちょうど城下町とカカペト山のまんなかに位置していて、登山者が多く立ち寄る野外区で一番大きな町だった。ケビンは毎回頼んでもいないのにヨワたちを店に誘って新鮮な野菜が自慢のオリジナルサンドをごちそうしてくれた。それもこれもお気に入りのユカシイ目当てだった。
ユカシイがいつだって引きつった笑みを浮かべながらもケビンのまるい手を振り払わないのは、ここのオリジナルサンドが本当においしいからだ。たっぷり挟んだチキンににんじんのソースの組み合わせが最高によく合う。お金を出したらひとつ四五〇ヒラン。愛想よくしているだけでタダになるならやらない手はないでしょ、と言ったのはユカシイ本人だ。




