25
「護衛なんて。護衛なんて!」
ヨワは思うまま魔法でリンを持ち上げた。
「うわっ、なんだよ急に。下ろせって!」
「帰って! もう二度と私について来ないで!」
「あちゃあ。先輩もしかしてまた惚れっぽい癖が出てたんですか」
「ち、違うもん! 絶対違うから!」
ユカシイにあっさり図星を突かれて、ヨワは首をぶんぶん振り手をめちゃくちゃに動かした。それに合わせて空中のリンもまた強風に狂った凧のように宙を舞った。その絶叫は先をのんびり歩くロハ先生にも届いた。
「こらこら。楽しい山登りだからって今からはしゃぐと体がもたないよ」
行儀よく返事をしたユカシイに制されてヨワはとりあえずリンを下ろした。リンは地面にうずくまり顔を上げようとすると「うっぷ」とえずいた。その真っ青な顔を見るとさすがにやり過ぎたとヨワは反省した。
だが謝ることはしない。泣きたいのはヨワのほうだった。やはり自分は女としての魅力がなにひとつないのだと思うと、急速に目元が熱くなった。
「護衛なんて必要ない。痴漢だって私のことなんか眼中にないよ」
一度だけ目元をぐっと拭い、ヨワは踵を返して歩き出した。ああ、イライラする。かゆい。
「あなた女心がわかってないわね」
「……それが護衛に必要なら、努力するよ。おえっ」
ユカシイは唇をなぞりしばらく考えたあとにっこり笑った。
「道なりまっすぐだから。目が回るのおさまったらついてきてくださいね」
湖の外に広がる平野は野外区と呼ばれ、この地区には他国から来た移民が多く住み農業や畜産が盛んに営まれている。
カカペト山のふもとまでまっすぐに伸びるゆるやかな一本道を行く。左右には見渡す限りの春野菜が出荷はまだかと背を伸ばしてそわそわと風に揺れていた。一際大事そうに囲いがされた畑の前を通った時、ぷうんと甘いいちごの香りがヨワを楽しませた。




