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「わかった。王には俺から伝えておく。きっとわかってくださるはずだ」
ユカシイの意味深な答えをリンは素直に受け取ったらしかった。王にユカシイとの仲を報告されるとそれはそれで気恥ずかしいやら困る。と、リンを止めようとしたヨワの言葉をユカシイが遮った。後輩はすばやく「あの人を追い払うチャンスですよ」と耳打ちしてきた。
「それじゃああなたにもうヨワ先輩につきまとう理由はないわよね。さようなら」
ひらひらと手を振るユカシイの態度は少しやり過ぎな気もしたが、ヨワはなにも言えなかった。王の命令で異性と、リンと、子どもをつくるなんてどう考えてもおかしなことだ。彼には申し訳ないと思うが、お互い不運に振り回されたのだ。
ところがリンは気まずそうに頭を掻いて去る素振りを見せなかった。
「あー。そういうわけにはいかない、かも」
「はあ!? どういうことよ」
不満をあらわにするユカシイの横でヨワは首をひねった。
「実は護衛も兼ねてるんだ。むしろ俺としてはそっちが本命で。ほら、ヨワは最後の継承者だからなにかあったら困るって」
「ゴエイ……」
ヨワの中でほのかに光を帯びていた期待が崩れ去った。はっきり拒んでおきながらヨワのそばを片時も離れなかったこの二週間、もしかしてリンは考え直したのかしらと想像に胸をときめかせた夜は一度ではなかった。もしそうだったらと思うとリンの黒い目も黒髪も誠実で頼もしいチャームポイントに見えたものだった。コリコ国の騎士は品行方正だと他国の者でも知っている。それなら、彼に気があるのならたとえ命令だったとしてもありじゃないかしら。そう思って粗末な布団の上でじたばたと埃を立てていた。ユカシイには絶対言えない話だ。
それがどうだ。彼の口から出てきたものは色気もへったくれもない、いかつい言葉だ。




