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しかしユカシイはけろりとしていてにやにやしながらヨワの首にすり寄ってきた。
「なあに、先輩恥ずかしかったの。かあわいい」
耳の裏をくるくるなでる指をヨワは押さえつけた。
「ユカシイ! 乙女がはしたないよ。男性の前で」
「いいじゃないですか。こうやって見せつければあの人も帰るかもしれませんよ」
流し目を送ったユカシイにつられてヨワもリンを見やった。リンは今にも口がぽっかりと開きそうな顔でこちらを見ていた。ヨワは慌てて視線を外した。
「もしかして……お前らってそういう仲なの?」
近年では同性同士の恋人も珍しくない世の中になったせいか、リンは早くもユカシイが目論んだ通りに察した。どう切り返せばいいのかヨワは困った。たしかにユカシイとは長いつき合いだ。ヨワが中学二年生の時、新一年生として入学したユカシイとその秋に出会ってからだからもう七年にもなる。スキンシップの好きなユカシイに合わせて女同士、気さくに触れ合う仲だ。ヨワにとっては家族よりも長い時間いっしょにいて家族より深い間柄になっていた。
友だち。後輩。そんな呼び方はよそよそしいとすら感じる。だがその近さは恋愛とも違っていた。
「恋人って言いたいの?」
うなずくリンにユカシイはくすくすと笑って、ヨワの腕に腕を絡めた。
「恋人なんて。あたしと先輩は他人のものさしでは測れない仲よ」
ユカシイの答えはヨワの中にすとんと落ち着いた。友だちでもない。恋人でもない。でも互いに唯一無二の存在であることだけは確かだ。ともすれば、恋人を知らないヨワにとってはその存在よりもユカシイが大事だと思える。そんな関係を明確に説明できなくても、ヨワとユカシイだけが感じていればいいのだ。
「そうだったのか」
リンはそうつぶやいてしばし考えたあと力強くうなずいた。




