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ユカシイの言う通りだった。ヨワがホワイトピジョン家に寄り道している間に、この黒髪の騎士が資料置き場に先回りして以来、彼はヨワの周りをうろちょろしている。それは昼夜を問わず、ロハ先生の講義を受けている時も学食で昼食をとっている時も夜寝る時も、リンは教室の隅や隣のテーブルや資料室の扉の向こうにいた。
時々ヨワに話しかけてくる内容は雑談の域を出ず、一日のほとんどをリンは静かにヨワから三歩下がってそばにいる。謁見の間での拒絶を思うと、彼は一体なにをしたいのかまったく理解できなかった。ヨワは嫌いな相手にわざわざ自分から突っかかっていく性格ではない。こういう時は関わらないことが一番だとユカシイと話して今日までリンを放置してきた。
でもまさか騎士であるリンが城下町から遠く離れたカカペト山まで往復四日もかかる行事に参加するとはヨワもユカシイも考えていなかった。騎士の第一の使命は城を守り王を守ることだ。その主の命令でもない限り、長く町から離れることなどあってはならない。
さすがにヨワもユカシイも無視できなかった。なにより我慢の限界だ。
「これはヨワ先輩とひとつ屋根の下で濃厚な一夜を過ごせる貴重なイベントなのよ。あなたは邪魔だから今のうちに帰って」
「ユカシイさん? 言い方がちょっとあれだけどカードゲームして夜中お喋りすることを言ってるんですよね。発言が私利私欲にまみれてますけど」
「なに、カードゲームだと。俺も混ぜろ」
「な、なに言ってるのよ! 三人でなんてダメよ。絶対にダメ!」
「ちょ、そこでそんな慌てて否定すると別の意味に聞こえるからやめて! こらユカシイ!」
ヨワが鋭い声を出すとユカシイは舌を出して謝った。女同士なら慣れたものだが男性もいるところでこの手のおふざけは居た堪れない。




