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さすが! と声を上げてヨワは喜んだ。うれしそうな顔から一変してユカシイはうつむくと風船のように太ったリュックをもじもじと揺らした。
「先輩と楽しくお茶したくて紅茶も持ってきたからリュックがいつもより重くなっちゃってえ」
なんてことはない問題だ。ヨワはにっかり笑ってみせた。
「だいじょうぶ。ユカシイの荷物はいつものように私が魔法で運んであげる」
これはいつもロハ先生には内緒にしているやり取りだった。はじめての登山の時ヨワは自分も含めて疲れきった一行を見兼ねて、荷物は自分が魔法で運ぶと提案した。ところがロハ先生はヨワだけに負担はかけられないと拒み、ユカシイにも自分の荷物は自分で持とうと釘を刺したのだった。
この気遣いはうれしかったが、実はヨワにとって三人分の荷物を運ぶくらい造作もないことだった。そのことはユカシイだけが知っている。何度か先生にもだいじょいぶだと伝えたが彼はから元気を振り絞って遠慮した。ついにヨワも遠慮するようになって、ロハ先生がバテてくる六合目あたりからこっそりと荷物を浮かべるようにした。先生は「クライマーズハイだ!」と言って今のところ気づいていない。
「先輩いつもありがとうございます」
ユカシイはネコのようにするりと身を寄せてきた。まったく甘えた上手だ。こんなことをしなくてもヨワは魔法を使うことを渋ったりはしない。それはユカシイもわかっていることだ。それでもこんな回りくどいやり取りを毎回くり返しているのはふたりの間の言葉遊びで、大変な山登り中のひとつの楽しみでもあった。
「シナモンもカスタードも紅茶も大して重くないだろ」
だがそこにこの戯れを理解していない者が水を差す。ぬっと横から出てきた男からヨワはさっと顔を背けて、ロハ先生に向けて手を挙げた。
「先生え、部外者がひとり混じってます」




