190
「どうしよう。食べる手が止まらないよ」
「先輩、普段引きこもりがちなんだから気をつけないとダメですよ。リンといっしょに走り込むことになっちゃうからね」
「うーん。それはやだなあ」
噂をすれば影。そこへリンがようやく戻ってきた。汗で胸元がびっしょり濡れている。しかし当人は気にするどころか清々しい顔をして砂浜はいいトレーニングになる、などとのたまった。オシャマはポットまで用意していてまだ息を弾ませているリンに飲み物を渡した。どうりでスサビが疲れた顔をしていたわけだ。
徐々に食事の手がゆるまってきた頃、ヨワはそっとみんなを見回した。満たされた体を潮風になでられ寄せては引いていく波音を枕に、午後の陽光にくるまってまどろむようなおだやかさにそれぞれ身を任せている。ユンデだけはもう小枝を見つけて砂に絵を描いていた。頃合いだとヨワは深く息を吸った。
「私食べすぎちゃったのでちょっと散歩行ってきます」
立ち上がったヨワをきょとんと見上げる面々の中、ユカシイは笑みを浮かべた。
「いってらっしゃーい。あたしはまだ動きたくないからここにいるわ」
ヨワの代わりに残るみんなの相手をしてくれるつもりなのだろう。ヨワは感謝の意を込めてうなずいた。
「じゃあ俺も行くよ」
立ち上がるリンの腰にいつもと違って短剣を帯びているのが見えた。護衛の彼が武器を持っていたりヨワのあとをつきまとったりするのは自然の流れだったが、事情を知らないウララに気を使ったようだ。
「ヨワ、僕もついてっちゃダメ?」
小枝を持ったままユンデが駆け寄ってきた。幼い子どもを本当の父親の話につき合わせるのはなんとも重く忍びない。ヨワはしゃがみ込み謝った。
「ごめんね。ちょっと行って帰ってくるだけだから、ユンデは待ってて」




